この冬は本当に陸の冬鳥が少ない年回りでした。鳥たちは今回の大雪を予測していたかのように、冬が始まってもまったく姿を現しませんでした。そんな中、正月明けの出石川でオジロワシの飛来が確認されました。天然記念物指定の珍しい鳥の、但馬では何十年ぶりかの飛来です。
専門家の写真鑑定で、このオジロワシは2歳の幼鳥と同定されました。オジロワシは北海道のオホーツク沿岸の流氷の上で、魚を食べているイメージが強いタカ科の鳥です。翼を広げると2mもある大きな鳥で、成鳥になるまでに6年掛かるといわれています。成鳥になるほどに尾羽が白くなってゆくので、オジロワシの名があります。
幼鳥はくちばしの色が薄く先端が黒くなっています。尾羽も真っ白ではありません。それでも、カラスと並ぶとその大きさの違いが明らかで、さすがにワシと呼ばれるだけの風格を持っています。
地元のカラスは見慣れない鳥にすぐ反応して、自分たちの縄張り内から追い出そうと攻撃してきます。オジロワシもたくさんのカラスの絡まれていましたが、カラスを嫌って逃げ出す様子もなく同じエリアに留まりました。
オジロワシの常駐場所は決まっていて、川岸の杉のてっぺんに止っているのをよく見ました。一度止ると1時間でも2時間でも留まり続けるので、対岸の道路からの観察も容易でした。しかし、色が地味で、そのつもりで見ないとトビと思って見過ごしてしまうほどで、この珍鳥に気づく人は多くなかったようです。
次なる関心は、オジロワシがここで何を食べているかです。大きなワシのお腹を満たすのに十分な餌が出石川にいるのだろうか?
チャンスは初認から8日目にめぐってきました。出石川の河原に下りてオジロワシが食べていたもの、それは死んだサケでした。捕食中は腐敗が進んだ外観からそれがサケだとは分かりませんでしたが、食べ終わった残渣を調べてサケだと知りました。
オジロワシは1時間以上かけて、途中に休憩も入れながら、80センチ級のサケの死骸を頭から半分平らげました。オジロワシが出石川に飛来したことも驚きですが、食べた餌がサケだったことも驚きでした。オジロワシが常駐した出石川の流域には、サケの産卵場所を示す漁協の立看板があります。まさかオジロワシがその看板を読んで常駐を決めたのではないでしょうが、自分の獲るべき獲物の気配をしっかりこの場所に見つけていたことに、自然界の不思議を感じます。
オジロワシは陸のカラスや海のカモメと同様に、自然界の掃除屋です。生きた獲物ばかりか、死んだ肉も好んで食べます。今回の観察では、川底に沈んだ産卵後のサケを目ざとく見つけて引き上げたのでした。
出石川でのオジロワシの観察は1月の終わりまで続きましたが、大雪の襲来とともに姿が消えてしまいました。その後、3月に入ってからも円山川河口で同じ個体と思われるオジロワシ幼鳥が目撃され、当地での越冬が確認されました。
写真・文 コウノトリ市民研究所 高橋 信