ヒトヨタケ科のナヨタケ属、地味で同じようなキノコがたくさんあり、同一種でも大きさや色形など外見上の幅が大く、同定がなかなか難しいグループだと思う。イタチタケ、ムジナタケ、ムササビタケと、三種の獣の名前の付いたものがあり、そのうち、ムササビタケについては、2019年4月4日に報告している。
そこでもイタチタケについては、○○イタチタケと様々な種類があることに触れているが、「日本きのこ図版」(平成20年 青木実 日本きのこ同好会)など見てみるとナヨタケ属にイタチタケを冠するものが20種以上記載されており、それぞれ、イタチタケ亜属、ムジナタケ亜属、ムササビタケ亜属にまたがっているのだから、そりゃようわからんわ、勘弁してくれ、という気持ちにもなってしまう。
イタチタケは、図鑑によって書き方はやや異なるところもあるが、初夏から秋に林内の地上、広葉樹の朽木などに群生。傘は小形から中型、鈍円錐形から平ら、黄褐色から淡黄褐色、中央部はやや農、湿時条線あり、縁部に消失性の被膜名残をつけ、成熟すると縁から裂けることもある。ひだは密、白色からのちに紫褐色、乾燥すると傘の表皮内部に空気が入り白くなる、柄は白色平滑中空でもろい。という具合に、なかなかつかみ所が難しいキノコである。
写真のものは、広い意味でのイタチタケでほぼ間違いないであろうと思われるもので、但馬各地で複数年間にかけて撮影した写真である。一般的に図鑑に掲載されているものに比べると、褐色が弱く灰色が強いものが多いように思われる。ただしそれらは、外見的には「キノコ図鑑」(2001年 幼菌の会)に掲載されているものとピッタリと言って良かろう。
2016年に近縁種としてハイイロイタチタケ(Psathyrella cineraria)が記載されたようであるが、以前よりウメネズイタチタケ(梅鼠鼬茸)の仮称で報告されており、ネットでの乏しい情報で見る限りしっかりした情報が分からないので、広い意味でのイタチタケで間違いないと思う。
さて、イタチタケの食毒についてであるが、このキノコも、昔は間違いなく食菌、今は毒菌?とされつつある。
「原色 きのこ全科 見分け方と食べ方」(昭和43年 清水大典 家の光協会)では、ムササビタケと合わせて食菌、いかにもキノコらしい平凡な味として紹介されている。時代が進み「きのこ 見分け方 食べ方」(1988年 清水大典 家の光協会)では、食菌、カサ裏が黒くなる前の若いものを選ぶこと、脂肪質の料理が良いと紹介されている。「山渓フィールドブックスきのこ」(1994年 山と渓谷社)では食、「キノコ図鑑」(2001年 幼菌の会)でも食。「食べられるキノコ200選」(2002年 信州キノコ会 信濃毎日新聞社)においては、キノコの本場信州において堂々と200選にランクイン。くせがなく、淡泊。油やバターで野菜と一緒に炒めて食べるとある。信州の食文化に昔から取り入れられていたのかもしれない。
しかし、翌年に発刊された「フィールドベスト図鑑 日本の毒キノコ」(2003年 (財)日本きのこセンター 学研)では、シロシピン類を含み注意が必要と、毒キノコとして掲載されている。しかし。症状については中枢神経系の中毒のようであるが明確には記載されていない。要はマジックマッシュルームと一般に称されるキノコに含有されるシロシピンという成分が含まれていることが分かったので幻覚症状が出る危険性があるということだろう。
「新版北陸のきのこ図鑑」(平成25年 池田良幸 橋本確文堂)では要注意、「山渓谷カラー名鑑 日本のきのこ」(増補改訂版 2011年 山と渓谷社)においては、発刊当初からずっと食を維持。ネットにおいては、食毒様々な記載が見られる。
要するに昔から一部においては普通に食べられていたのであるが、毒成分を含んでいることが分かったので注意が必要である、また、なかなか同定が難しく、変種、亜種等幅が広いため、その地域の食文化、経験のある人の直伝等により食については十分に注意が必要であるということであろう。また、それほどおいしいキノコでもないようであるから、無理に食べる必要もなかろう。
私はまだ食べたことがない。なんせ、なかなか見分けのつきにくいキノコで、今回ようやくこの手のキノコがイタチタケというものであろうということが分かったという感じである。幸い紛らわしい致命的毒菌は見当たらないようである。