3月になれば鳥たちが一斉に動き出します。日本各地で冬を過ごしたカモは、繁殖地である北の大地へと渡って行きます。9月半ばには当地に飛来するコガモは、翌年の5月頃まで姿を観察できる馴染み深い小型のカモです。
いつもは気にしないコガモの群れですが、特に春の渡りのこの時期には、バードウォッチャーの視線が注がれます。コガモの群れの中に紛れ込んだ、別のカモを見つけるためです。
同じカモ科のシマアジという小型のカモがそれです。コガモと同じくらの大きさですが、オスの姿は大きく異なります。写真はシマアジのオスです。チョコレートブラウンの波模様を基調に、頭部には非常に明瞭な白く太い眉斑があります。腹部の中央付近は白いさざ波模様、翼の雨覆の白黒の模様がシックです。
シマアジの越冬地は東南アジアが中心で、日本へは渡りの途中の旅鳥として観察される希少種です。
シマアジのオスは他のカモと見間違えることはまずありませんが、メスの識別は慣れないと難しいかも知れません。この写真の右がシマアジのメスです。この時期にオスとメスが一緒に行動しているのは、おそらく繁殖ペアなのでしょう。
地味なメスの識別ポイントは、目の上の白い眉斑、くちばしの付根の白い点状の斑です。オスと一緒に行動している時はシマアジのメスと分かりやすいですが、単独でコガモのメスの中に紛れ込んでいる場合はこの識別ポイントを注意しましょう。トモエガモのメスとの識別にも注意。
この写真は今年の4月11日に円山川河口の戸島湿地で撮影したものです。シマアジのペアがしばらく滞在中です。アオサギやカワウが集まる湿地を、シックなシマアジのオスがゆっくり泳いでいる風景は美しいです。
いくつかの旅の中継地を経由しながら、シマアジはユーラシア大陸の中北部の繁殖地を目指します。