アカダマキヌガサタケ スッポンタケ目スッポンタケ科スッポンタケ属
赤玉衣笠茸 (Phallus rubrovolvatus)
キヌガサタケというキノコがある。姿が美しくキノコの女王とも呼ばれ、中華料理の高級食材でもある。高校生の時に能勢の妙見山での野外活動で、一度だけ見たことがあった。
キヌガサタケなどスッポンタケの仲間は、幼菌時は卵が地面に転がっているような形で発生し、殻を破くように柄を伸ばす。キヌガサタケは傘と柄の間から菌網呼ばれるレース状のマントを垂らすように伸ばしていく。
先日、職場の同僚で、養父市八鹿町三谷の自宅周辺里山をフィールドに森林ボランティア活動をされているI氏から、キヌガサタケが大量に発生しているという情報を得、観察、撮影をさせていただいた。
I氏のフィールドで確認したものは、卵状の幼菌が赤茶色で、成菌は私がイメージしていたキヌガサタケよりもしっかりしたマントを持っていた。
基部はわずかな菌糸で地面につながっているだけなので、大きな体を支えきれず直立できずに斜めになっている。さらにキヌガサタケの特徴である悪臭(糞臭)がしない。
このキノコは、キヌガサタケに近いが別種のアカダマキヌガサタケであった。以前はキこの2種は混同されていて同一種に扱われていたが、幼菌の色、マントのレースの網目が粗さ、粘液状の胞子(グレバ)の香り、これらが明らかに異なることから現在は明確に別種とされている。
スッポンタケの仲間は、グレバの臭いで昆虫類などを呼び集め、粘液状の胞子をそれらの媒介者に付着させ拡散させる。その香りは糞臭で人間にとっては不快なものが多いが、アカダマキヌガサタケのグレバはフルーツ臭である。完熟したマンゴーのような、トロピカルで、不快ではなくむしろ好ましい香りであった。
キヌガサタケ類の成長、マントの伸張速度は速く、通常半日で伸びきるので、図鑑などではその様子が良く紹介されている。私も是非その成長の様子を、つまり卵から成長し、美しくマントを垂らした姿を撮影したいと思い、7月上旬の猛暑であったが、3回現場に通わせてもらった。
図鑑やネットでは、早朝から午前中に発生し、午後にはすぐに萎れて倒れてしまうとの情報が見られたが、結果的には、午後や夕刻から夜間に発生したと個体も多数あった。I氏と私は「おそらく、キヌガサタケは媒介者の昆虫類が多く集まる日中をめがけて主に早朝から発生する」という仮説を立てたのだが、どうもそうでもなさそうである。
10:50
この個体は、8時過ぎにはまだ卵の頭部に亀裂が入っただけであった。ほとんど変化がなかったので油断し、30分ほど休憩して見ると頭部(傘の部分)が完全に露出していた。残念ながら最初から横向きに出てしまっていた。
10:56
その後、柄、マントの伸張を撮影したが、お昼前に時間切れで再集計までの撮影はできなかった。
11:04
11:34
12:08
残念ながら、今回のチャレンジ時には、美しく直立する個体には出会うことができなかったが、アカダマキヌガサタケとは十分に付き合うことができた。
I氏が幼菌を自宅に持ち帰り伸張を撮影されたので、時系列の撮影記録を紹介させていただく。
I氏のコメント
8:19スタート 順次9:35 11:08 12:41 13:03 13:36 13:54 13:59 14:00
14:01に鉢の向きを変えました。
14:26 14:33 14:56 15:35 16:23 17:26 17:28
約9時間にわたる観察記録となりましたが、13:36に頭を出して、14:33の胴体が出る1時間の変化が一番大きいようです。
(作業の都合上、一部写真を割愛しております。)
関西ではキヌガサタケよりアカダマキヌガサタケのほうが多いようである。県によってはレッドデータにも記載されており、希少種に入ると思う。
長文になったが、最後に試食結果についても報告しておく。中華料理の高級食材ということで、これを機会に食べてみた。グレバを取り除き、柄と菌網部分を自然乾燥させたものを水で戻す。
その際、菌網に付着していた少量のグレバが溶け出し、大量の胞子により水が濁ることが観察された(胞子による濁りかどうかは推察であるが)。
軸もマントもスポンジ状の構造になっており、既に食したことのあるI氏から、中華の汁系を含ませて食べるのが良いのではとのアドバイスがあったので、手軽なところでインスタントラーメンに入れて食した。
シャキシャキとした歯ごたえは、おそらくキヌガサタケ類特有の食感で、想像していた以上に美味であった。他に置き換えることができない食感として珍重されるのも納得できる。高額で購入するほどのものでもないと思うが、採集できたときはまた是非食べたいと思った。
今回の撮影や画像資料の提供等、I氏には快くご協力をいただきましたこと、この場をお借りして感謝申し上げます。