キタノメダカ
ミナミメダカ
メダカは最もなじみ深い淡水魚の一つです。日本列島に生息するメダカは2種類とする説があります。青森県から兵庫県日本海側にかけて分布するキタノメダカと、兵庫県以西の日本海側、岩手県以南の太平洋側、南西諸島に分布するミナミメダカです。ただ、お互い交配できることなどから、別種ではなく亜種レベルの違いであるとする説もあります。ここでは「日本産魚類検索 全種の同定 第三版」にしたがって、別種として見ていきます。
分布の境界にあたる京都府の丹後半島から兵庫県但馬地方にかけての一帯は特異なエリアです。キタノメダカとミナミメダカが混在しており、水系によって種類が異なります。メダカ研究において重要な地域でして、様々な大学や研究機関が注目しています。特に円山川水系と岸田川水系にはキタノメダカ「ハイブリッド集団」と呼ばれる特異な遺伝子を持つ集団が分布しています。長年、この集団はキタノメダカとミナミメダカの雑種の子孫であるとされてきました。しかし2018年、岡山大学大学院・東京大学大学院・北里大学の研究チームが、遺伝子解析の結果から但馬・丹後のハイブリッド集団はキタノメダカの起源集団である可能性が高いことを明らかにしました。つまり、キタノメダカは但馬・丹後から青森県にかけて分布を広げていった可能性があるということです。
淡水魚の分布域は長い年月をかけて変化してきました。川の流域は地殻変動や川の浸食、気候変動による海面の変動に伴う海岸線の移動などにより、隣の川と合流したり離れたりを繰り返して変化してきました。それに伴い淡水魚も移動を繰り返し、何万年、何百万年もの長い年月をかけて現在の分布域が形成されました。
キタノメダカ
ミナミメダカ
見た目がそっくりなので、見分けることは非常に難しいです。
1枚にまとめてみました。上がキタノメダカで下がミナミメダカです。キタノメダカの特徴として、体に黒い網目状の模様があることです。ミナミメダカにはそれがありません。
また、ミナミメダカには尾びれの付け根に黒い粒子の集合体が見られます。赤で囲った部分です。
ただ、これらの特徴はあくまで傾向でして、必ずしもこの特徴が出るとは限らないようです。正確な同定をするためには遺伝子解析が必要です。しかし、これらの画像を撮影した時は、すべての個体でこの傾向が見られましたので、ほぼ間違いないと思われます。
小川やビオトープにメダカの放流が行われていることがありますが、他の地域由来のメダカを放流すると、交配によってその地域に元から棲んでいるメダカの性質が変わってしまい、環境に適応できなくなる可能性があります。その結果、その地域からメダカが絶滅してしまうおそれもあります。これはメダカだけに限らず、魚などの水生動物や植物など移動能力が限定される生物においては慎重にならなければいけません。鳥などは移動能力が高く、中には自力で日本列島と大陸を行き来するものもいますが、自力で移動できる範囲を越えて人の手で移動させることは上記のような問題があります。どうしても移植・放流が必要な場合は、専門家の意見を聞くなど、慎重に行う必要があります。
但馬はキタノメダカの発祥の地である可能性が出てきました。しかし、自然が豊かな但馬でも、年々メダカの数は減りつつあります。これら貴重なメダカを守っていくことができるのは、他ならぬ私たち但馬人です。
写真・文 コウノトリ市民研究所 北垣和也