大雨で増水した田んぼで、波紋が立っていました。時折、激しく水しぶきがあがっています。
水面から鰭が出ています。増水により川と田んぼが繋がったので、近くの川から魚が入ってきて産卵をしているようです。
淡水魚の多くは春から夏にかけて産卵をします。中には大雨で増水した湿地で産卵するものもいます。
大きな川の周辺には、洪水によって湿地が形成される事が多いです。このような湿地を「氾濫原」と呼びます。特に今のような梅雨時は、増水によって川と氾濫原が繋がりやすい季節です。川と繋がった氾濫原は、淡水魚にとって格好の産卵場所となります。氾濫原にできた湿地は流れがなく、稚魚のエサとなるプランクトンも豊富です。
日本列島では、氾濫原は大部分が田んぼとして利用されてきました。湿地というものは年数が経つと草木が生い茂り、やがて陸地化します。しかし、人間が田んぼとして毎年利用している事から、氾濫原は湿地として続いてきました。
その田んぼで、産卵をする魚たちがいます。
ナマズが泳いでいました。コイやフナ、ナマズなどは氾濫原を産卵場所として利用する事があります。
ナマズの産卵。
オスがメスに巻き付いて産卵をします。この写真ではわかりにくいのですが、水中の白っぽい物体がナマズです。
コイの産卵。
1匹のメスに複数のオスが群がって泳ぎながら産卵をします。
コイはなじみの深い淡水魚の一つです。古くから食料として利用されたり、観賞用に品種改良されたりしてきました。ただ、現在の日本列島に生息しているコイのほとんどは、日本列島在来の野生型ではなく、大陸由来の飼育型です。食料資源として各地に放流され、定着したと考えられています。現在の但馬地方に生息するコイも、人為的に移入された飼育型と考えられています。近畿地方で野生型コイが生息しているのは、琵琶湖・淀川水系だけのようです。
コイは雑食で、非常に食欲が旺盛です。口に入る大きさなら、水草や貝、水生昆虫、小魚など、何でも食べます。元々コイが生息していなかった川にコイを放流すると、以前からその川に棲んでいた生物を食べ尽くしてしまうおそれがあります。安易な放流は避けるべきです。
かつての田んぼでは、梅雨時期にはこのような光景が至るところで見られたことでしょう。しかし現在の田んぼの多くは圃場整備がされており、魚が入って繁殖ができません。水路との高低差が大きいためです。近年では魚の通り道「魚道」が田んぼにも設置されるようになりましたが、ごく少数です。
「昔の川は、水よりも魚の方が多かった」という例え話を聞いたことがあります。川の魚が少なくなったのは、田んぼで魚が繁殖できなくなったのも一要因かもしれません。
かつての豊かな川を取り戻すためには、川と田んぼの連続性を取り戻すことが必要です。
写真・文 コウノトリ市民研究所 北垣和也