モモイロツノホコリ
モモイロツノホコリというレアな変形菌を見つけた。
ごく普通に見られるツノホコリの変種のひとつなのであるが、滅多に出会うことができない。
普通のツノホコリは純白で美しいが、こいつは桃色なのである。とても美しい。
北の地方には黄色のツノホコリが普通にいるようだ。7月には福井県越前市で実際に見ることができたし、関西でも京都府で報告があるのだが、但馬では残念ながら白いツノホコリしか見たことがなかった。
京都にいるのなら但馬にもいるだろうと自分なりに黄色のツノホコリを探しているのだが、見つからない。ところが驚いたことに、この度、非常に珍しい桃色が但馬で見つかったのである。
場所は美方郡香美町兎和野高原、日時は2022年8月30日、標高約650m、基物は針葉樹の倒木。
すぐ隣にタチフンホコリが発生していたので針葉樹でまず間違いない。針葉樹の種類は良く分からないが、日本変形菌誌によればモミ属などの腐木に発生するとのこと。場所は針葉樹交じりのブナ・ミズナラ林なので、モミ属である可能性も高いと思われる。どのくらいレアな種であるかというと、日本変形菌図鑑(山本幸憲他1995年平凡社)では記載なし、図説日本の変形菌(山本幸憲1998年東洋書林)では日本未記録種として登場、日本変形菌誌(山本幸憲2021年日本変形菌誌製作委員会)でモモイロツノホコリという和名が「新称」として記載されている。
モモイロは、薄い桃色というか明るい紫色という表現の方が近いかもしれない。学名を見ると「rosella」となっているので薔薇がイメージされているのかもしれない。確かにワインのロゼの色に例えれば違和感はないと思う。
拡大して見ると白色透明に近づいていく。胞子が確認でき、未熟な状態から胞子が成熟する状態まで、モモイロ以外は通常のツノホコリと変わりはないようだ。ツノホコリにはもうひとつ桃色の変種でモモイロタマツノホコリがある。こちらは図説日本の変形菌にも記載されており、今回のモモイロツノホコリよりも古くから認知されている。
ツノホコリの仲間については、これまでに但馬情報特急でもたくさん報告してきた。
2020.07.03掲載カンボクツノホコリの報告がとりまとめ的なものとなっているので、興味のある方はこちらを参照していただければと思う。https://www.tajima.or.jp/nature/159073/
桃色のケースに入れると、光の反射の具合でより桃色が冴える?。
以下は余談。
ツノホコリは数㎜から大規模な発生になると数十㎝程度になるので肉眼でも容易に発見することができる。今回も小規模な発生であったが比較的簡単に気が付くことができた。倒木に薄赤色の付着物。拡大してみると桃色のツノホコリでびっくり。おぼろげにモモイロツノホコリというものがいたことを思い出し、スマホでググったところ、一番上に出てきたのが2020年7月に自分が書いた「たじまのしぜん – カンボクツノホコリ – 但馬情報特急」という記事。それ以外は一般公開された具体的なモモイロツノホコリに関する情報は見当たらない。今回の報告は、詳細画像付きモモイロツノホコリ確認情報としては非常に貴重な報告になるかもしれない。
一部を採集し乾燥標本とした。ツノホコリ類は水分が多いため干からびてしまうのだが、冷凍保存など現実的に無理であるので、いつも通りの乾燥標本とした。残念ながら桃色は残っているものの干からびてしまった感は否めず、本来の美しさは無くなってしまった。なので今回フレッシュな現物を見たのは私だけということである。
なお、ツノホコリにはもう一つ「青」が確認されている。日本では未記録。