ホソエノヌカホコリ
ホソエノヌカホコリはヌカホコリ(Hemitrichia clavate)の変種とされている。ヌカホコリについて2018年3月にここでも報告しているが、当時はまだ変形菌を調べ始めて日が浅く、良く分かっていないこともあり、書き改めるべきおかしなことも書いている。そういう所も含めてあまり参考にもならないがこちらもご笑読いただければと思う。
ホソエノヌカホコリはごく普通種で最も見つけやすい変形菌の一つだと思う。ネットの情報を見る限り但馬だけでなく全国的に言える傾向で、ポップコーンがはじけたような、アフロヘア―が爆発したような、楽しい雰囲気の身近な変形菌と言える。一方、本種の基本種と言えるヌカホコリについてはなかなか見ることは無い。ネットの情報でもめったに見ることは無い。発生時期はヌカホコリが秋から冬、ホソエノヌカホコリは春から秋の時期。和名の由来と言える柄が細いかどうかという形態的なことだけでなく発生時期も基本的に違っているようだ。日本変形菌類図鑑(1995平凡社)には「この変種を独立種とする見解もある。」と明記されている。
今年は5月に雨が少なく、なかなか変形菌が出て来なかったのだが、6月に入って沢沿いでようやく少し見つかるようになってきた。やはりこのホソエノヌカホコリが出てくる。小さな黄色の美しいもの、つまり変形体から子実体へ変身中のごく若いやつを見つけたので、おそらくホソエノヌカホコリだろうと思いつつ家に連れて帰って観察してみた。
多くの変形菌は短時間で、一昼夜とか、つまり一晩で変形体から子実体へと大変身する。変身のピーク時には1,2時間の間に姿かたちを大きく変化させていて驚いてしまう。だから少し油断していると大事なところを見逃してしまう。しかし、このホソエノヌカホコリについては変化がとてもゆっくりで観察しやすい。毎日1回、、そんな感じでも変化を観察できるのでお勧めである。
今年の6月22日11時2分に採取、その日の20時23分、翌日23日22時3分、その二日後25日22時8分、さらに4日後29日10時10分、さらに4日後7月3日9時33分に撮影したものを見ていただきたい。旅行のため25日と29日の間が空きすぎてしまったので、肝心の子嚢がダイナミックに裂開する様子が観察できなかった。詳細な変化の様子は次の機会としたい。
6月22日11時2分発見採取時、黄色が美しい。
22日20時23分 家に連れて帰った日の夜。少し色が濃くなっている。みずみずしい。軸から子嚢へ胞子の基になるのであろう原形質が吸い上げられていくようにつながっている様子が透けて見える。
6月23日22時3分、連れて帰った翌日の晩。子嚢がチョコレート色に変わり、杯状体となるだろう下半分との境目がはっきりとわかる。
6月23日22時4分、別角度から拡大。美しい。
6月25日22時10分、二日後の25日夜、かなり熟成してきた感じ。
6月25日22時8分、別の部分では子嚢の裂開が始まっている。おそらくこの時期からは、できれば数時間おきに観察すれば、刻々と変化する様子が見られたのだと思うが、すぐに寝てしまい、あくる日は仕事で次の日は旅行に出てしまった。ホソエノヌカホコリは簡単に採取できるという安心感が甘い対応になってしまった。
6月29日10時10分、裂開が始まって4日後。細毛体がすっかり広がっている。
7月3日9時33分、さらに4日後。
少し探せば簡単に見つかるホソエノヌカホコリ。未熟時は黄色がとても美しく、柄から子嚢へ原形質が吸いあがっていく様子が見られ、徐々に熟成してチョコレート菓子のように色づいてゆき、やがて子嚢が裂開すると、もじゃもじゃのアフロヘアのような細毛体と明確なカップのような杯状体が楽しいスタイルを作り出し、胞子が飛ぶ様子までを一週間以上かけてじっくりと観察させてくれる。とてもフレンドリーな変形菌だと思う。