厚生労働省の「毒キノコによる食中毒発生状況(種類別発生状況)」によると、
・・・・・・・・・・平成20~29年 平成29年
・・・・・・・・事件数 患者数 死者数 事件数 患者数 死者数
ツキヨタケ 191 654 0 6 15 0
合 計 447 1286 1 16 44 0
あいかわらず、死亡例はないものの中毒件数は断トツの一位である。このツキヨタケについては、この「たじまのしぜん」においても過去に2回報告している。
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今回、兵庫県北部の蘇武岳山頂付近でツキヨタケが大発生している枯木に遭遇することができた。見事な生えっぷりである。これだけ見事なものは、僕の生涯でもう見ることはないかもしれない。
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ツキヨタケは、茶色系とピンク系のものがあり、これはピンク系である。ピンク系のものの方がやや珍しいと思われるが、但馬地方ではわりと多いのではないかと思われる。
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ヒラタケやムキタケとよく似ており、そのこともあり中毒例も多いのであるが、ツキヨタケの判別の決め手としては、付け根の部分に黒いしみが確認できることであることについては、これまでも述べてきた。しかし、たまにこの黒いしみがないものがあるという。
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まさしく、今回の群落には、そのシミが確認できないものが多数存在していた。
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通常のツキヨタケの黒いシミとは到底いいがたい。
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私は、これまでピンク系も含めて多数のツキヨタケを見てきているので、外見的にすぐにツキヨタケと判断したが、シミが確認できないものがあるという情報もかろうじて知っていたので、特に混乱することなく、複数の確認を行ったところ、比較的小型個体にはしっかりとシミが確認できた。
前回は自宅へ持って帰って発光状態を撮影したのだが、今回は、ぜひ自然状態での発光状態を観察してみたく、下界から遠く離れた高原林道という悪条件ではあるが、撮影に挑戦してみることとした。10月1日の午前中に現場を発見し、その日は夕刻まで時間がありすぎたことと、夜間に単独で撮影する行為こそ危険と思い、さすがにこの場所へ単独で撮影に来ることは躊躇された。しかし、これまで数十年に渡りキノコ観察をしている自分が、このような立派なツキヨタケの発生を初めて見るということは、今回を逃すと次はあるかどうかわからないという事であり、10月3日に決行することを決心した。10月3日は、準備不足や悪天候や仕事を早退しての決行であり、雨、風、カメラの長時間露光への対応能力不足などにより、まともな撮影が出来ず、悔しい思いをしながら撤退した。この機会を逃したことについてさらに後悔が強まり、10月5日に再度決行することを決意し、今回の報告となったのである。
ツキヨタケは、カサのヒダ側が発光する。だから、下から見上げる姿勢の方が発光がよくわかる。発光量は弱く、真っ暗闇であれば、うすぼんやりと緑色に光るのがわかるが、月光でも大きく影響する明るさである。
次に撮影状況である。夜間の高原林道は、正直言って気持ちの良い場所ではない。17時半ごろから日没を待ち、19時前には日没となる。その日は月齢は1/4程であり、曇天でもあったが、それでも夜空に明るさがあり、F4、30秒の長時間露光では、夜空も明るく映ってしまう。難しいものである。
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いろいろと撮影してみたが、なかなか現場の雰囲気を表すものが撮れない。ツキヨタケの光は写真よりもずっと弱いと思って下さい。また、当然のことであるが、ツキヨタケの発生してからの熟度により発光の強さにも差がある。胞子の成熟とともに発光が強くなり、老熟とともに弱くなっていくのではないだろうか。
以下は余談である。夜間の林道に一人というのは気持ちの良いものではない。週末の蘇武山頂近くということもあり、林道途中でソロキャンパーが2か所でキャンプを行っていた。その気になれば、夜間の高原森林と一体的になれるのかもしれないが、私は、キノコや粘菌をとおして森の中で彼らとの関係を楽しむことが好きである。しかし、標高950mほどの夜間の林道で、それほどなじみもないツキヨタケと付き合うことは常に違和感を伴い、一刻も早くこのミッションを終了したいというのが正直な気も落ちであった。ラジオを鳴らして、ちょうどラグビーワールドカップ中継も行われていたので、恐怖感というものはそれほどなかったが、林道を無事に降りることができるか、車のエンジンはいつも通りにちゃんと始動するだろうかとか、いつもは気にもしないことがいろいろと心配であった。なお、気温はおそらく10℃台で防寒着が必要であった。なお、菅村副館長より指導を受け、豊岡から神鍋経由蘇武トンネルを超え、耀山より大幹線林道へ登っていくコースが、八鹿より名草神社ルートよりも道もしっかりしており、15分程度は短時間で行けるので参考としてほしい。ただし耀山ルートは夜間の見通しが非常に悪く、ガードレールが無く、横は渓流でヘアピンカーブというところがたくさんあり、ライトで確認できる片側の路肩に合わせて寄せることにより、反対側は幅員3~4mはあることを信じてゆっくりと進むことが肝要と思われる。もちろん、シカの飛び出しも十分に注意すること。