兵庫県美方郡香美町香住区にある柴山地域
昔から漁業を生業としてきた町で、南向きに位置する入り江は、日本海の厳しい風の影響を受けにくく北前船の寄港地として栄えました。
冬場は、但馬の冬の味覚、松葉がにの中でも高級品とされる「柴山ガニ」のブランドでも知られるカニの町・柴山の沖浦(おきのうら)地区を中心に散策してみましょう。
スタート地点であるJR山陰本線柴山駅です。
柴山駅のホームは、民宿街、日本海や柴山港などを見渡せるビュースポットでもあります。
1912年(明治45)、山陰本線京都出雲間が開通した時には、柴山駅はありませんでした。しかし、1946年(昭和21)に柴山港で水揚げされた海産物を京阪神へ出荷するため、貨物専用の線路が引かれ、翌年、佐津駅と香住駅との間に柴山駅が設置されました。
つい最近まで開業当時の駅舎が使用されてきましたが、木造駅舎で老朽化が激しかったため2020年に現在のシンプルな駅舎になりました。
沖浦地区に向かう道中、柴山温泉の民宿街を通り抜けます。
柴山駅から徒歩圏内には、10軒ほどの民宿や旅館が立ち並び、柴山港直送の海の幸を味わうことができます。
3分ほど歩くと漁火ラインと呼ばれる県道に出て左方向へ向かいます。
漁火(いさりび)とは、一般にイカ釣り船の集魚灯の光が浜から見えるものを言います。
初夏から秋ごろにかけて山陰海岸一帯で見ることができ、漁火ラインを夜車でドライブすると幻想的な漁火をのぞめます。
日本海を眺めながら漁火ラインを歩いていると、ウミネコの団体に出会いました。
地元の方によると、この場所にはよくウミネコが整列しているとのことです。
漁火ラインを12分ほどみちなりに歩くと柴山港にたどりつきます。
柴山港は、天然の良港として、四季折々の新鮮な魚介類が水揚げされています。
とりわけ松葉ガニの漁では、山陰有数の水揚げを誇ります。
また、柴山は品質管理に日本一厳しく100以上に細かくランクづけされるそうです。
中でも最上級ランクのカニには、「柴山ゴールド」の称号が与えられ、「柴山ガニ」の証明であるピンク色のタグに加えて、ゴールドタグがつけられます。
こちらは柴山港で毎年11月6日に行われる初競りの様子です。
ご祝儀価格として、1匹100万円以上の値がつくものもあるとのことです。
柴山港から北へ向かって進むと、入江の向こうに沖浦集落を見ることができます。
岸壁が埋め立てられるまでは舟屋が並んでいて、丹後の伊根町のような風景が広がっていたそうです。
今でもその面影が感じられます。
沖浦側の港から見た柴山港、底引き網漁船が並んでいるのが見えます。
松葉ガニ漁が解禁されると一斉に漁に出ていきます。
11月解禁の松葉ガニ漁は日本海に冬の訪れを告げる風物詩で、漁が終わる3月末までは町がカニ一色に染まります。
集落の中に入ると、漁村らしい細い路地が迷路のようにめぐらされています。
六地蔵を目印に右方向へ向かうと、大放神社まで行くことができます。
六地蔵から少し歩いたところに、大放神社へと続く階段と鳥居があらわれます。
大放神社は、沖浦集落の氏神で、漁師町らしく拝殿には宝船の絵が奉納されています。
毎年秋祭りには、境内にある芝居堂で兵庫県の重要無形文化財に指定されている三番叟が奉納されます。
三番叟は、香美町の香住区訓谷・一日市・香住・森・下浜・沖浦、小代区新屋の7カ所で伝承されています。
雰囲気のある焼き杉板の細い路地を進みます。
路地の途中に、たこつぼを発見!漁師町ならではの風景です。
ちなみに現在では、たこつぼ漁は行われていないとのことです。
集落の路地を抜けて山の方へと進んでいくと、沖水の貯水槽があります。
沖水とは、この周辺に湧き出る湧き水のことです。
沖浦地区には川がなく水場の確保はとても重要な問題であったため、このような貯水槽を作ってためており現在でも各家庭に配水されているとのことです。
貯水槽の先には、レンガ造りの水くみが場があり、沖水を直接くみ取ることができます。
近くに鉱脈があるためか非常に澄んだ水が湧き出ているとのことです。
沖水の水くみ場の隣には、大日堂と呼ばれるお堂があります。
大日堂は、牛の安産の神様で、隠岐の島から旅をしてきたお坊さんが、沖浦に大日如来像を奉られたのがはじまりだそうです。
毎年2月28日には「大日まつり」が行われ、今でも地域の人たちが大切に守りつないでいます。
また、大日まつりをはじめた頃は、駅から大日堂まで参拝に訪れる牛飼いたちの長蛇の列ができていたという話が受け継がれています。
大日堂の石仏は、香美町の香住区内にある八十八か所巡礼の石仏です。
明治後期に作られたもので、先ほど通った六地蔵のとなりにもありました。
ふたたび海際にもどり入江に沿って進むと、今回のゴール地点である御番所跡に到着します。
江戸時代、北前船のルートが開発され、その寄港地に柴山港が選ばれました。
当時、出石藩領だった柴山に御番所が置かれ、船往来手形などの検査にあたり、海上交通の重要な役割を果たしたそうです。
現在は、船揚げの傾斜路として利用されており御番所跡らしきものがありませんが、北西方面が山に囲まれ、北西の季節風が遮られる寄港地に適した場所であることがうかがえます。
御番所跡付近には、今子浦へと続く遊歩道の登り口があります。
山陰海岸ジオパークのトレイルコースにもなっていますので体力に余裕がある方は挑戦してみてはいかがでしょうか。
今子浦まで2.5kmをゆっくり歩いて2時間程度で行くことができるそうです。
沖浦鉱山跡や大山灯台などにも行くことができ途中の景観も見ごたえがあるそうですが、道が険しいため足元には十分な注意が必要です。
(参考 山陰海岸ジオパークのホームページ)
https://sanin-geo.jp/play/geotrail_courses/route17/
赤灯のある西側から伸びる堤防は、釣りのスポットになっています。
また、この赤灯までいくと柴山地域の風景を360度ながめることができるビューポイントでもあります。
赤灯付近から西側の岸壁をよく見てみると、青々とした松の間に1本だけ金色に輝く松を見ることができます。
香美町の文化財にも指定されている「黄金松」です。
この松は、年中葉が黄金色をしていて不思議なことに種から育てたものは葉が黄色にならないそうです。
古くは北前船の寄港地として栄え、海とともに生きてきた柴山の沖浦地区。
冬場は、「カニの町」として紅色に染まり但馬の冬を彩ります。
松葉ガニを堪能するかたわら、ふと周辺を散策してみてはいかがでしょうか?