シナダレスズメガヤ イネ科
シナダレスズメガヤの話を初めて聞いたのは20歳になったころです。40年ほど前の話です。
当時、私は生態研究会というサークルに所属していました。
季節はさだかではありませんが、観察会の下見で比叡山に登っていました。先輩から、シナダレスズメガヤは、 ウイーピング ラブ グラス「すすり泣く恋の草」とも呼ばれ、工事でむき出しになった法面を緑化するために種子を吹きつけるのだと教わりました。比叡山には多いのだとも教わりました。わざわざ外国から種子を取り寄せているとも聞いたように覚えています。「そうか、植物にはそんな利用法もあるんだな」と植物の初心者だった私は、「すすり泣く恋の草」という別名も含めて、シナダレスズメガヤに好意的な印象を持ったのも覚えています。
そのシナダレスズメガヤが、今では、日本の侵略的外来種ワースト100の1種とされ、外来生物法では要注意外来生物に指定されています。私がもっともやっかいだと思う植物の一つにもなっています。
シナダレスズメガヤは、表土を地面に縛り付けておく力が強いので法面や崩落地の緑化に効果があり盛んに使われてきました。生態系に大きな影響を与えるので、「使用を控えることが望ましい」とされたのは、環境省・農林水産省・林野庁・国土交通省(2007)生態系保全のための植生管理方策及び評価指標検討調査報告書の中でのことです。1950年代が使い始めですので、50年以上にわたって使われてきたことになります。
シナダレスズメガヤが生い茂る斜面は奥山でも至るところで見られました。その種子が、川を下って大繁茂しています。
川では、こんなことが起きていたのでしょう。
シナダレスズメガヤは、まず砂質土の部分に侵入しました。むき出しの法面で育つ植物ですから、暑さにも乾燥にも貧栄養にも対応可能です。砂質土の場所は、川の流れからも少し離れていて出水で流されにくいのです。そこで、長い間、大量の種子をまき散らしながら頑張ったのだと思います。芽生えては出水に流されたりしながら、少しずつ、砂の部分へ広がり、やがて礫の部分に進出していきました。
礫の河原は、本来、シナダレスズメガヤが生育しやすいところではありません。しかし、運良く発芽して、流されずに数年経つと、礫の河原の環境自体がシナダレスズメガヤに適したものに変化してきました。
シナダレスズメガヤは、多年草です。冬に地上部は枯れてしまいますが、根はしっかりと残ります。年々、個体は大きくなり、根はしっかりと張ります。やがて少々の出水では流されない強固な根で支えられた直径数十cm以上で高さ1mを越える大きな株が出来上がります。この株は、大きな抵抗になり増水の度に砂や土を自身の周りに堆積させます。この生育に適した土の上に雨あられのように種子が落ちてきて、すぐに発芽します。これが少し前の円山川の礫河原です。今では礫河原の多くがシナダレスズメガヤに埋め尽くされています。そして、昨年、今年の結構大きな出水でもビクとしませんでした。
ここは、もう石が見えない。
シナダレスズメガヤの繁茂で、礫河原固有の植物たちは、息絶え絶えです。写真の地は、かつてカワラハハコが数千個体生育していました。今年、確認できたのは数個体です。しかも小さくて開花は不可能な大きさです。おそらく徹底的に調べても2桁は望めないのではと思います。
カワラハハコの群生地の今の姿。びっしりと繁茂し、地面は見えない。
ごく稀にこんなギャップがある。ここに礫河原固有の植物が生き残って生えている。
カワラハハコが2株、残りはカワラマツバ。
景観的にもよくありません。礫河原は、見ていて気持ちのよい場所です。礫河原は丸い石があってのものです。
礫河原らしい風景。こんなところはもう少ない。出水で大きく削られて石だけが残っている。ここには別の大きな問題がある。
この河原を再生することは容易ではありません。上流の種子の供給源を絶つこと。生えているシナダレスズメガヤを抜き取ることが解決策ですが、いずれも非常に困難です。まずは第一歩として、現状を皆さんにお知らせしました。