粘菌の和名はとても印象深いものが多いように思う。
キララホコリ、ウルワシモジホコリ、キラボシカタホコリ、ヨリソイフクロホコリ、メダマホコリ、フンホコリ、マンジュウドロホコリ、、、
ほんの30年ほど前までは、粘菌にはしっかりとした和名はほとんど付いていなかったらしい。戦前においては南方熊楠をはじめ、現在よりも多くの研究者が活発に粘菌を研究していたが、学名を用いるので和名はさほど必要もなかったのかもしれない。唯一例外として「ムラサキホコリカビ」(現在のムラサキホコリ)は、高等学校の教科書に記載されていたそうで、今以上に粘菌の存在感はあったようだ。戦後は長い間研究が低迷し、つい最近になってようやく脚光を浴び、私のようなものでも粘菌に興味を持つようになった。
1995年発行の平凡社「日本変形菌類図鑑」の巻末に、解説者の山本幸憲先生が「研究する仲間が徐々に増えてきているので、なんとか一般に通用する和名がほしい」と思われ、氏が1993年に提案した和名を基にこの図鑑が取りまとめられた旨が書かれている。粘菌の和名には山本先生の命名センスが大いに影響しているのであろう。
ナカヨシケホコリ。図鑑でいろいろな粘菌を見た中でも、その図柄や生態などよりも和名の印象が強烈に記憶された一種だった。「仲良し」なのである。
昨年の12月7日、美方郡の標高550mほどの地点で採取。次の週には積雪したのでシーズン最後の入山だった。どちらかというとナメコ、クリタケ等キノコ狙いだったのだが、ほとんど収穫はなく下山途中であきらめながらも倒木を見ていると、ほんの少しだけケホコリっぽいものが見られた。家に戻って実態顕微鏡を見てみると、仲良し感がいっぱいの映像が目に入って来た。
「日本変形菌類図鑑」の写真と酷似している。図鑑でしか見たことのないナカヨシケホコリ。
今回、顕微鏡で胞子の形態も確認できた。粘菌の同定はなかなか難しいが、ナカヨシケホコリについては他に紛らわしい種もないので間違いないと思う。
高さ約4㎜まで、主に秋から冬、ふつう柄がくっつき掌状子嚢体を形成する。胞子は鮮やかな黄色で粗い帯状網目型。腐った針葉樹の上にふつう。世界的広布種。