8月末、長雨の後の晴天数日。アカマツの腐倒木にアミホコリやムラサキホコリ、モジホコリの仲間がたくさん発生している。それらに押されながらひっそりと、別種の見たこともない変形菌の子実体ではないかと思われるものが発生していた。ごく小さな湿潤な黒い1㎜程度までの粒粒の集団。希少種に出会えたのではないかと大いに期待して採集し、標本にして持ち帰った。
手持ちの変形菌図鑑ではそれらしいものが見つからない。結論から言うと残念ながら変形菌では無かった。ネットの変形菌グループで問い合わせてみたところ、すぐに詳しい方からカタツブタケ属の一種ではないかとの返答があった。子嚢菌類、つまり主流とは言えないがキノコの仲間である。
驚いたことに「山渓フィールドブックス10きのこ(1994年)」にカタツブタケ属の一種がちゃんと掲載されていた。図鑑の写真は小さく不鮮明なので同じ種かどうか分からないが、同じカタツブタケ属の一種がちゃんとキノコ図鑑に掲載されているのだ。僕は中学生のころからキノコに興味を持っているが、この手の1㎜程度のものについては意識したことはなく観察対象として見ていなかった。5年ほど前から変形菌に興味を持つようになり、小さな㎜単位の子実体を探すようになったため、今回このようなキノコにも出会うことができたという訳である。
特徴について専門用語を交えて説明すると、子座はマット状、子嚢殻は基部のみ埋没し暗褐色の類球形で径1㎜程度まで、孔口は乳頭状ということになろうか。普通の言葉で説明しようとしたら非常に長文になり難しくて書けないのだが、つまり写真を見てもらった通りである。
「変形菌」、ほぼ同じ意味で「粘菌」と呼ばれる生き物は、一般的にとても小さくて見つけにくく、よく似た間違いやすい偽物がたくさんある。変形菌グループ内ではこれらの間違いやすい偽物のことを「なんちゃって粘菌」と呼んでいる。今回は、なんちゃって粘菌の一つを見つけたということでもある。
さて、このカタツブタケ属の一種であるが、人間にとってはほとんど関係ない生き物ではないかと思ったが、少し調べてみると所属するクロサイワイタケ科の菌類はリグニン分解菌として重要視され、植物病原菌として知られる種も含んでおり、意外と存在感を示している仲間のようである。
前述の通りカタツブタケ属は図鑑にも堂々と掲載されていたこともあるわけだが、種の同定は困難なため、写真のものもカタツブタケ属の一種としておく。
好き嫌いはあると思うが、でべそのような乳頭状突起、外皮の模様、密に並んでいる様子など面白いと思う。