今年の梅雨は長雨が続き、生きものへの影響も感じられます。湿った環境を好む菌類にとっては、今回は恵みの時間となったようです。例年は限られた期間に、ごく少数が発生するだけのキヌガサタケを、今年は数多く見ることができました。
スッポンタケの仲間で、子実体と呼ばれる卵が地上に現れ、しばらくその状態を保ちます。機が熟すと卵が割れ、托と呼ばれる茎が早朝から伸長し、数時間でこの写真のような美しいレースのドレスをまといます。
托の先端はグレバと呼ばれる、胞子を含んだ粘液で覆われ、強い腐敗臭を放ちます。美しいキヌガサタケの姿と相反するこの臭いは、観察する人間にとっては閉口なのですが、この臭いこそが、このキノコの生き延びる作戦なのです。
強い腐敗臭はたちまちまわりに広がり、嗅ぎ付けた虫たちがすぐに集まってきます。ハエや小さな羽虫、カタツムムリも集まってきました。今回の観察で、最も目立った虫が今回紹介するベッコウヒラタシデムシです。
シデムシとは、自然界の死に群がる甲虫の仲間で、「死出虫」の漢字があてられます。生きものが死ぬと、その死臭を嗅ぎ付けて群がり、死体を食べて行きます。つまり、森の掃除屋さんと言ってよいでしょう。普段、自然界で起こっている無数の死に、私たちは目を向けることがほとんどありません。シデムシを見る機会も、ほとんどないでしょう。
午前中は美しい姿をしていたキヌガサタケも、その日の午後にはみすぼらしい恰好に変わり果てます。集まっていた虫たちの姿もまばらになって行きます。
ベッコウヒラタシデムシは動物の死体に集まりますが、このように、キヌガサタケの臭いにも集まって、胞子を含んだ粘液を体につけて移動することで、分布の拡散に一役かっているのです。
ベッコウヒラタシデムシがキヌガサタケに集まって来る様子を、タイムラプス動画で撮影したものです。