キララホコリ。雲母埃。
キララホコリはキラキラと輝く雲母(うんも)を身に纏ったような美しい変形菌である。
子実体の高さ約3㎜まで。
子嚢は偏球形から類球形、底部が扁平からややへそ状、灰色から黒色。軸柱は半球形で橙色から褐色、柄は太く軸柱と同色。子嚢の表面に雲母のような白い大きな薄い鱗片を纏う。
その鱗片は円形または角ばり、鱗型で、結晶質。星形になることも良くあり、私には皇室の菊のご紋のように見える。
ネット上での各地からの報告を見ていると、鱗片の大きさや形、密度、色合いなどはかなり幅があり、個体差、地域差、系統、環境などいろいろな要素が影響しているのではないかと愚考する。
それぞれの雰囲気、美しさがある。菊花石、象嵌細工、自然の造形美という表現もよく見られる。多くの人が美しいと感じるようだ。
今回掲載している写真の大部分は、昨年末に兵庫県豊岡市但東町平田の山中で採取したものである。石灰質鱗片がかなり大きいのが特徴だと思う。
12月5日に観察した未熟な子実体は、黒い子嚢から石灰質鱗片が析出しつつある様子が見られる。
この写真は西垣由佳子氏提供、若い子実体の群生。
12月29日に観察した時には、その石灰鱗片は約3週間強の間に12月の雨に打たれ雪にさらされながら徐々に育ち、湿潤で子嚢と一体の状態から、やがて時間とともに崩壊していくであろうところを、私に採取され標本となった。その後、我が家に持ち帰られ徐々に乾燥が進むにつれて子嚢から浮き上がって行き、また別の美しさを見せてくれるようになりお正月を迎えた。
なお、キララホコリという美しい変形菌は特に珍しい種ではないが、但馬では2021年11月9日、朝来市坂で枡岡望氏により初めて確認された。写真は枡岡望氏提供。
さらに豊岡市においては2022年12月5日、豊岡市但東町平田で西垣由佳子氏により確認された。ある程度標高の高い渓流近くなど比較的湿度の高い山中の針葉樹の腐木に発生するものと考えていたが、但東町の現場は標高160mほどの低標高の明るい山中だった。
主に秋に腐った針葉樹に発生する。コケと混生することが多い。
以下はキララホコリという和名について少し愚考してみました。
今回この記事を書いていて知ったのであるが、雲母は、「きら」、「きらら」とも読むようである。雲母についてフリー百科事典で調べてみると「雲母(うんも)は、ケイ酸塩鉱物のグループ名。きらら、きらとも呼ばれる。特に電気関係の用途では、英語に由来するマイカの名前で呼ばれる。英語のmicaはラテン語でmicare(輝くの意)を由来とする。」とのことである。私はこの記事を書くまでは、「キララホコリ」という和名はキラキラと輝く様を少し派手に表したものだと思っていた。しかし、あくまで推察であるが、命名者は美しく輝く様子を少し派手に表現したのではなく、純粋に雲母を纏ったような印象的な姿を「キララ」と表記したということなのだと思う。「ウンモホコリ」よりも「キララホコリ」の方が良い。学名を直訳してみると「鱗皮症」とか「虎」などが出てきて、「雲母」は関係してこないように思うのだがどうであろう。この変形菌に雲母を当てたのは命名者のセンスということではなかろうか。平凡社1995年発行「日本変形菌類図鑑」巻末「頭をひねった和名と用語」の中で山本幸憲先生が、研究者の間ではラテン語の学名でのやり取りで問題がなくても、変形菌が広く普及していくためには一般に通用する和名が必要であり、工夫して和名を提案したことなどが述べられている。変形菌の和名についてはいろいろと印象に残るものが多く、センスを感じるものが多いのであるが、このキララホコリについても素晴らしい和名の一つだと思う。恥ずかしながらキララが雲母の読みであるとは私は知らず、単に輝く様子を表したものと思っていた。広い見識をお持ちの山本先生が変形菌の和名の多くを名付けられたことは、後から変形菌に興味を持った私たちにとってはとても幸運なことであったと思う。