ジクホコリ
変形菌は森の妖精・魔術師と例えられることがあるが、ジクホコリはその代表種として紹介されることが多い。虹色の金属光沢がとても美しく、多くのファンを魅了する変形菌界のトップスターの一つである。
ジクホコリは分類が難しいようで、以前はムラサキホコリ目に入れられていたが日本変形菌図鑑(平凡社1995年)ではモジホコリ目に入れられている。しかし今春発行された日本変形菌誌(日本変形菌誌製作委員会2021年)では有軸亜綱中の位置不明属に置かれた。分類上、他の仲間との関係がよく分からないようだ。このことは他の生物群と比較して変形菌分類がいかに遅れているのかを表しているのではないかと思う。
鮮度の良いジクホコリの子実体は非常に美しい。子嚢は円筒形から卵形で金属光沢のある青色~銀色~金色で柄は純白。美しい粘菌を代表する種として多くの関係書籍の表紙などを飾ったり、イベントに用いられる巨大オブジェが作成されたりしている。春から秋に落葉上に発生。時には生葉や枝に大量発生することもある。特に珍しい種ではないようであるが、かといって簡単に見つかるものではなく、多くの変形菌ファンのあこがれの一つと言える。
私もいつかはこのジクホコリを見てみたいと思っていたが、キラキラ系の変形菌はなかなか見ることができなかった。キノコから徐々に変形菌にも興味が広がって来たので正確な表現は難しいが、それなりに変形菌を観察するようになって5年目ぐらい、この春、本格的に葉っぱ系の粘菌探索に取り組むようになり、ようやく出会うことができた。
変形菌についてはこれまで倒木・腐木に発生するものばかり見ていて、リター(落ち葉や小枝など植物遺体の堆積物)から発生するものは見たことがなかった。今年は何とか葉っぱ系を見てみたいと思い、諸先輩方から教えて頂いた観察ポイントをチェック。最初はアジサイの根元。しかしアジサイがシカの食害で衰退しているところが多く、いまだに空振り続きである。
次に道沿い、ざっくり言うと、意外なことに純自然な森林山中よりも遊歩道などの脇がねらい目で、雨水などの流れ具合で良く湿ったリター溜まりに注目。
自分なりに目星をつけた場所を探すと、アスファルト遊歩道脇のリターの中の杉枝に白いものが見えた。よくある菌類の菌糸かと思ったが念のためルーペで見ると白の中に数十の黒っぽい粒があり、拡大してみると金属光沢を放っていた。これこそジクホコリであった。
翌日もほぼ同じ場所で落ち葉の裏につつましく隠れていた50ほどの子実体を発見。探し方のコツがわかったこともあると思うが、次の週は見つからなかったが2週間後は散策道の反対側の複数個所で大量発見、さらに次の週には別の種を探しているのにジクホコリばかり見つかるという事態に。
すっかりジクホコリの有難味が無くなってしまうほどとなってしまった。出るところには出るのである。しかし、このポイント以外ではまだ見たことがない。日本変形菌誌には春から秋にリターや生きた草などに普通と記載されているが、そのとおりなのであろう。各地のジクホコリの報告を見てみると、柄の長いもの、子嚢がずんぐりしているもの、円筒形に近いもの、金属光沢の具合など形態的な幅はかなり広いようだ。
見ている人は普通に見ているし、見ていない人は全く見ることができていない。それらの中でも、このポイントのものは軸がしっかりしており金属光沢はとても美しいと思う。
*写真がダブっているところがあったので、1枚追加して入れ替えました。2021.07.10