今まで但馬に棲んでいるヨシノボリの仲間を何種類か紹介してきましたが、今回紹介するのは、“種名が定まっていない”ものです。「未記載種」と呼ぶことがあります。生物の種名は学術論文などで公表されて初めて定まります。現在、この魚は種名が定まっていませんが、以前はトウヨシノボリという種名がついていました。
分類学のややこしい話になりますが、ヨシノボリの仲間は日本の淡水魚の中でも未だ分類の混乱が続いているグループです。トウヨシノボリには、「橙色型」、「宍道湖型」、「縞鰭型」など、外見の特徴や分布地域の違いから分けられる複数の「型」がありました。近年そのうち幾つかの型が「別種」とされました。しかし残りの型は新たな種とはされず、種名がつかないままになっています。20年ほど前に出版された図鑑では「トウヨシノボリ」となっています。ただ、現在でも便宜的に「トウヨシノボリ」と呼ぶこともあるようでして、最近出版された図鑑でもトウヨシノボリの名称が使われているものもあります。
尾びれ付け根にある橙色の斑紋が目立ちます。かつてのトウヨシノボリという名前の由来は、この橙色の斑紋です。ただ、この斑紋がない個体もいることがあります。
但馬では円山川水系のみに生息しています。
多くのヨシノボリ類と同じく両側回遊性です。川で産卵し、ふ化した稚魚は海へ降り、しばらく海で過ごしてから川に戻ってきます。中には海へ降らない陸封型というタイプもいます。円山川水系には陸封型も棲んでいるようです。
この写真は水槽で飼育していた時のものです。
大きさは4~8センチほどです。他のヨシノボリ類と同じく、雑食性です。水生昆虫や石に付いた藻類などを食べます。
シマヒレヨシノボリ
こちらは以前「トウヨシノボリ縞鰭型」と呼ばれていたのですが、2010年に別種とされ、シマヒレヨシノボリという種名がつけられました。その際、命名の基準となった標本は円山川産のものです。豊岡盆地にも生息しています。他のヨシノボリ類は川に棲んでいますが、このシマヒレヨシノボリは川には少なく、ため池や川と繋がったビオトープなど、止水域に棲んでいます。
こちらは「トウヨシノボリ宍道湖型」と呼ばれていた型です。オオヨシノボリによく似ていますが、胸びれの黒い斑紋の形が不明瞭なことと、採集場所が同じ川のシマヨシノボリの生息場所より下流だったことから、ヨシノボリ未記載種と判断しました。同じ川にシマヨシノボリが棲んでいると、オオヨシノボリはさらに上流に棲み分けるからです。宍道湖型は外見がオオヨシノボリによく似ています。
今回で但馬地方のヨシノボリについて、全種の紹介が終わりました。来月は総まとめをする予定です。
写真・文 コウノトリ市民研究所 北垣 和也