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シロエノカタホコリ

モジホコリ目  カタホコリ科  カタホコリ属                      Didymium squamulosum (Alb. & Schwein.) Fr.     白柄之堅埃

シロエノカタホコリ。変形菌という生き物、カタホコリ属の一種。カタホコリ属(Didymium)は変形菌の中でも一つの勢力を誇っている。通常は軸柱があり、子嚢壁全体が残存性で石灰質を帯び、細毛体には石灰がなく、石灰結晶はふつう星形を呈する。落ち葉などのリター上に発生するものが多い。あくまで私の見立てではあるが、フィールドでよく見つかるのはヒメカタホコリとそれによく似た仲間たちである。

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今回紹介するシロエノカタホコリは、それらの中でも少し重量感があり、しっかりとした存在感がある。特徴的なのは白色系の柄を持つことである。カタホコリ属のタイプ種であるカタホコリ(D. melanospermum)の柄が暗褐色〜黒色なのに対し、その柄の部分を白くしたような姿をしているのがシロエノカタホコリである。

一方で、柄が無いかあるいはほとんど目立たない、「無柄型」と呼ばれるタイプもこの種には存在する。これまでに採集した標本の中に、カタホコリ属であることは間違いないのであるが、それ以上どうしても種同定ができないものがあった。しばらく正体が分からず、カタホコリ属の一種(Didymium sp.)としていたのだが、他の不明種とともに専門家に鑑定していただく機会を得て、ようやくシロエノカタホコリの無柄型であることが判明した。

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山本幸憲著「日本変形菌誌」(2021年)のシロエノカタホコリの見ると、柄の部分について「有柄またはときに無柄」と記載されている。私は勝手に無柄型と言うのは有柄の群の中に、ときに無柄のものが混ざる程度と思い込んでいたため、一群ほぼすべて無柄であるという状態を全くイメージできていなかったのだ。やはり独学での観察には様々な壁があり、知っている人に教えてもらうことにより一気に視野が広がるのだと痛感させられた出来事であった。

よく観察してみると、子嚢に隠されるようにして短い柄がわずかに確認できる個体もある。柄が完全に見えないものが無柄型ということになると思うが、子嚢の基部はへそ状に凹んでおりその部分に短い柄が潜んでいるのだから、有柄か無柄かの境界は曖昧であると思う。稀に屈曲子嚢体型もあるらしい。

日本変形菌誌によれば、本種の細毛体は糸状で無〜淡褐色、稀に暗褐色。単純または分岐し、ときに膨大部を持つ。胞子は細かい疣型たは刺型で集合部が見られ、直径8〜11μm。実際に今回の標本を検鏡してみると、細毛体は淡褐色の糸状で単純〜分岐が見られ、胞子は細かい疣型で集合部があり、直径は7.5〜9μmであった。胞子径が類似種と比べて小さめである点も、本種の特徴をよく表している。

今回も本種の学名について読み解いてみたい。

Didymium squamulosum (Alb. & Schwein.) Fr.

1 属名:Didymium(カタホコリ属)
ギリシャ語で「双子」や「二重」を意味する「didymos」に由来。カタホコリ属の変形菌は、子嚢壁が石灰質に覆われた外側の層と膜状の内側の層から二重になるものが多く、その形態的特徴にちなんで名付けられたということである。しかし、実際はカタホコリ属の子嚢壁は1重が多く、変形菌に詳しい方は矛盾を感じるのではないかと思う。これは、18世紀の分類の歴史に由来しており、この属は1797年にドイツの植物学者Heinrich Adolph Schraderによって設立されたのであるが、彼が基準とした初期の標本(Didymium farinaceum = 現在のカタホコリ D. melanospermum など)を当時の機材で観察した際、「外側に付着した石灰の殻(外層)」と「内側の膜(内層)」をセットで「2重の周皮(double peridium)」と解釈して命名したのである。その後の研究が進み、「明確な2重周皮を持たない種(1枚の膜の上に結晶がパラパラと乗っているだけの種)」も同じカタホコリ属として次々と追加されたため、実態とのズレが生じてしまったということらしい。

2 種小名:squamulosum
ラテン語で「鱗のある」を意味する squamosus の縮小形である「squamulosus」に由来。シロエノカタホコリの子嚢表面は、星型の石灰結晶で覆われている。この白くザラザラした石灰結晶が微細な「うろこ」のように見える様子から、この名が付けられた。星形結晶と「うろこ」のイメージは少しズレがあるようにも思えるが、当時の学者の目にはそう映ったのだろう。

3 命名者:(Alb. & Schwein.) Fr.
この部分は、3人の著名な菌類学者の名前の略称と、分類の変遷の歴史を示している。
Alb.:Johannes Baptista von Albertini, ドイツの植物・菌類学者
Schwein.:Lewis David de Schweinitz, アメリカの菌類学者
Fr.:Elias Magnus Fries, 「菌学の父」とも呼ばれるスウェーデンの菌類・植物学者
カッコ( )の意味について:学名の命名者におけるカッコは、「最初は別の属として新種記載されたが、後に別の学者が現在の属に組み替えた」という分類のアップデート履歴を表わしている。
最初の発見(カッコ内): 1805年、AlbertiniとSchweinitzの2人が、この種を別の属である Diderma(ホネホコリ)属としてDiderma squamulosumという名前で新種記載した。
現在の属への移動(カッコの外): その後1818年に、Friesがこの種を詳しく研究し、現在のDidymium(カタホコリ)属に分類するのが妥当であると判断してDidymium squamulosumとして再分類を行った。
つまり、Didymium squamulosum(Alb. & Schwein.) Fr. という学名全体で、「AlbertiniとSchweinitzによって発見され、後にFriesによってカタホコリ属に整理された、微細な鱗のような石灰の殻を持つ、二重周皮の変形菌」という、特徴と研究の歴史を表している。

次に、和名「シロエノカタホコリ」についても少し考察してみたい。ただし、以下は駄文であるのでご了解の上でお読み下さい。というのは、変形菌の和名には厳密な命名ルールがあるわけではなく、漢字表記に至っては私自身の勝手な当て字に過ぎない。また、こうした命名に込められた背景に思いを巡らせることについては、特に観察をする上でそれほど重要なことではないと思うからである。

シロエノカタホコリ、表題には「白柄之堅埃」と記した。「シロエ」についてである。
漢字表記としては「白柄」と解釈するのが一般的だと考えるが、私は「白衣」とする説も有力ではないかと感じている。実際にシロエノカタホコリの子嚢を観察すると、白い石灰質が粉を吹いたように付着し、まるで白の衣を纏っているかのように見える。学名の「微細な鱗片を持つ(squamulosum)」というニュアンスも、「白衣」という表現はきわめて的確だ。また、実際の柄の色は真っ白というより少し黄土色を帯びることも多い。世界中に分布する本種について、命名者が白衣の意を込めて名付けたのだとすれば、なんとも素晴らしいセンスであると思う。

しかし、変形菌の和名全体を見渡すと、「〜エ」という命名は、ホソエノヌカホコリ、ナガエノエダホコリ、アカエキモジホコリ、アミエカタホコリなど多数存在するが、これらは例外なく「柄」を表しており、「衣」の意味で使われている例は残念ながら一つも見当たらない。和名の語源を推測する上では、やはり「白衣」と解釈するのは少々無理があり、「白柄」と考えるのが常識的な判断だろう。さらに言えば、カタホコリ属のタイプ種である Didymium melanospermum(カタホコリ)は黒褐色の柄を持ち、過去には「クロジクカタホコリ」と呼ばれていたこともあるようだ。タイプ種の黒柄に対して、特徴と言える白柄を冠して命名するのは、分類学において極めて王道な手法と言えよう。

シロエノカタホコリ、子実体は単子嚢体型または稀に屈曲子嚢体型、群生し、有柄またはときに無柄で高さ1.5㎜まで。子嚢はふつう円盤型であるが基部が深いへそ状なので亜球形または球形に見え、白~灰色で子嚢壁は膜質透明、微細な星形結晶に覆われる。柄がある場合は白~黄土色、石灰質で縦溝があり子嚢の高さの2/3程度まで。軸柱は子嚢底が盛り上がり円盤形から半球形で白色。細網体は糸状で無~淡褐色、単純または分岐し、ときに膨大部がある。胞子は細かい疣型または刺型で集合部があり、直径8~11μm。春から秋にリターなどにふつう。

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