ハダカコムラサキホコリ
今回紹介するのは、ハダカコムラサキホコリ。
前回は、本種の基本種であるダテコムラサキホコリを紹介した。
ダテコムラサキホコリの学名にある「typhina」は、「ガマ(蒲)の穂に似た」という意味を持つ。一方、和名の「ダテ(伊達)」は、子嚢に銀~灰色の被膜を纏う派手な外貌に由来する。
ムラサキホコリの仲間は同定が困難で紛らわしい種が多いが、ダテコムラサキホコリはその特徴的な外観から比較的容易に判別が可能である。しかし、多くの紛らわしい仲間が存在する中で、ムラサキホコリの仲間を象徴するような「ガマの穂」の名をこの派手な種が冠していることには、少なからず不似合いな印象を受ける。
今回取り上げるのは、ダテコムラサキホコリの変種であるハダカコムラサキホコリ。「変種」とは、種として分けるほどではないが、色や形などの特徴が親種とは明らかに異なり、それが固定的に現れる一群をいう。
ハダカコムラサキホコリの基本構造はダテコムラサキホコリと同様だが、最大の違いは子嚢壁にある。派手な銀~灰色の被膜が残るダテに対し、本種は早くに脱落するため、銀色の被膜を欠く。文字通り「裸」の状態であり、金属光沢の派手さはない。
そのため、特徴的な外貌のおかげで判別が容易だった親種とは対照的に、この変種は他のガマの穂を連想させるオーソドックスなムラサキホコリ類(コムラサキホコリ、チャコムラサキホコリ、ムレコムラサキホコリ、フタモンコムラサキホコリ、さらにはニンジャカミノケホコリやツムギカミノケホコリなど)との判別が非常に困難である。
この見分けのつきにくさがムラサキホコリ類の標準的な姿と考えると、この変種こそが「ガマの穂(typhina)」の名を冠する親種となるべきで、派手なダテコムラサキホコリの方がむしろ変種にふさわしいのではないかと愚考してしまうのである。ちなみに、変種名にある「similis」はラテン語で「似ている」を意味する形容詞であり、命名上の深い意図は無いようである。
判別が極めて難しいハダカコムラサキホコリであるが、山本幸憲著『日本変形菌誌』(2021年)に基づくと、同定のポイントは以下の2点となる。あくまでも私の解釈という前提である。
一点目は柄の被膜
柄に銀~灰色の被膜が残っているか。同書の図版でも、3本のうち1本の柄に被膜が明示されている。子嚢に被膜がない一方で、柄に被膜を有することは本種の大きな特徴といえる。
二点目は胞子の形態
胞子は直径6~8µm。微疣型(細かいイボ状)で、大きな疣の集合部が確認できること。
コムラサキホコリ属の特徴、細毛体の内網に拡大部分があり、子嚢に不完全な表面網を持つなどを備えた上で、これら2つの条件を満たせば、ハダカコムラサキホコリと同定して差し支えないだろうと考える。
今回の報告に当たっては、私が採取所持している6標本のうち、これらすべての条件を満たした3標本をハダカコムラサキホコリと同定した。
本種はダテコムラサキホコリの最大の特徴である「子嚢の被膜」を失っているため、変種といえど外貌は全く異なっている。柄に残る銀~灰色の被膜は、消失した子嚢壁の残存物のようなものであり、その残り具合には個体差も大きいのではなかろうか。
手持の標本でも被膜の有無にはかなりのムラが見られた。今回、柄に被膜が確認できなかった2標本については慎重を期して同定を避けたが、これらも本種の範疇に含まれる可能性は否定できない。あくまで今回の同定は、現時点での私の解釈に基づき、「日本変形菌誌」の分類に準拠して進めた結果である。
ハダカコムラサキホコリ
子実体は単子嚢体型、群生、有柄。高さ2~5mm。子嚢は円筒形~長卵形。子嚢壁は早落性で、銀色の被膜を欠く。柄は銀~灰色の被膜がある。軸柱は柄の延長として子嚢の先端近くまで達する。細毛体の連絡部は普通拡大し、周辺に向かって細くなる。亜表面網は不完全で、特に上部で欠ける。胞子は微疣型。大きな疣の集合部が数個見られる。直径6~8μm。春~秋、腐木上に普通。

























