ノビルは優秀な山菜だと思う。美味しくて滋養に富み、資源量も豊富。豊岡地域においては、円山川水系の堤防を探せば、資源は無尽蔵と言ってもよいかもしれない。これまでも、「旧コウノトリ市民研究所HP 食べよう遊ぼう 円山川河川敷の山菜(ノビルとアサツキ) 2003/03/30」や、「但馬情報特急 たじまのしぜん ノビル 2017.04.02 」で報告している。
http://kounotori.org/rs_asobu/se2_diary_u.cgi?txtnumber=1&mynum=18
https://www.tajima.or.jp/nature/plant/119386/
ノビルは、早春に柔らかな茎葉と球根部を採取利用するものと思っていたが、昨今のSNSの普及で、#ノビルでたくさんの情報が得られる。5月下旬から6月に休眠状態に入った球根部を収穫利用することがよくわかった。また、今回の調査で、繁茂した他の雑草の中から立ち上がる花茎の先端に一個だけつける花序、珠芽(ムカゴ)を収穫利用することがとても有効であることも分かった。
3月から、6月にかけてのノビルの茎葉の状態である。早春は細く柔らかい葉が伸びているが、5月に入ると雑草にまぎれて太い花茎が伸びてくる。
早春に分球した球根部は、春先に伸ばした葉より栄養を蓄え、徐々に太り、5月後半には葉部は枯死し、球根部はしっかりと固く休眠状態に入るようだ。多くの球根部は休眠状態に入るが、おそらく数年間かかって肥大した一部の球根部は、太い花茎を伸ばし、周りの繁茂する雑草にも負けず栄養を蓄えつつ、先端に一個だけ花序・珠芽(ムカゴ)をつける。
まず、球根部について述べてみる。ノビルの生態についての詳しい記述はなかなか見当たらない。今回の記述は、私の調査結果からの推測の部分が大いにあるので、その点は考慮して参考としてほしい。前年にムカゴから栄養繁殖した小さな球根や、前年あるいはこの冬に分球した若い球根、つまり花茎を発生しない大部分の球根部は、他の雑草がまだ繁茂する前の早春のわずかな日照を最大限活用し、栄養を蓄え球根を肥大化させ、5月下旬には地上部が枯死し、直径0.5~1.5㎝程度の丸く固い小さな玉ねぎ状になり、休眠状態に入る。休眠は夏を越し、晩秋に解除され、冬季に葉を少しづつ出して早春に向かう(晩秋の出芽については地域によっては早春にずれ込むようであるとの図鑑の記載があるが、この辺りは、今後の調査で確認したい。)。休眠状態の球根部、そのまま食すると、歯ごたえがあり、玉ねぎに似た辛みが強い。
もう一つの球根の形態、おそらくすでに数年を経過し、直径2センチ程度もあろうか、球形ではなくやや間延びしたらっきょうのように大きく育った球根部。これらは早春の日照で栄養を蓄えつつ、4月下旬くらいからは休眠に向かう他の球根部の葉部が枯死に向かう中で、太い花茎を発出させ、開花及びムカゴによる繁殖を目指す。これらの球根部は花茎と花序・珠芽生育のために栄養を使い、休眠状態に入った他の球根部とは違い、やや柔らかくなっている。この時点で分球を作っているものも見られる。大きく柔らかい分、醤油や酢の味がしみこみやすく食べ応えがある。
球根部の収穫調整作業は厄介である。球根部は地下深く5~10㎝程度にある。しかし条件によっては、例えば堤防斜面のコンクリート擁壁上の堆積土で発生したものは地上部すれすれに球根ができている。
太い花茎が数本まとまったところが採取には効率的である。株全体を囲むように、球根部を傷つけないように余裕をもって広めに移植ゴテを深く土中に差し入れ、ごっそりと株を掘り起こす。
うまく行けば、花茎基部の大きならっきょう状のものと、まるで何かカメ類の卵ではないかと錯覚するような休眠状態のしっかりと固い球根部がバラバラと土中に現れる。休眠状のものを拾い集めるとともに、花茎基部の小さならっきょう状のものをハサミで切断収穫する。小さな休眠状態の球根部をすべて拾い集めることは不可能であり、多くがその場所に残存するため、一見根こそぎの球根部の収穫ではあるが、資源に対するダメージは少ないと思う。もともと、円山川水系の資源量は莫大であり、河川改修などの環境変化と比べると山菜としての収穫は物の数ではないように思う。
現場でできるだけ土やごみを取り除き、帰宅後にさらに水洗、薄皮、ひげ根を取り除き、真っ白な球根部へと調整する。これらの調整作業は収穫作業以上に時間を要する。
次に、花序・珠芽(ムカゴ)部分について述べてみたい。この部分は形態的に特徴的で個体ごとの変異が大きい。
花は小さいがなかなか美しい。種をつけるものはまれであるようだ。
つぼみもかわいい。さらに、花は付けずにムカゴのみを発達させるものも結構ある。このムカゴは、成熟するとほぐれるように散らばり、地面に落下し栄養繁殖を目指す。
気の早いものは花茎先端についている状態で発芽し、小さく細いネギ状の芽が吹いているものもある。その状況は少し異様であるが強い生命力を感じる。この時期に散らばり、すぐに発芽するようなものが、雑草だらけの日照がほとんど届かないであろう環境で、果たして繁殖の役に立っているのか疑問であるが、実態はわからない。
大きく発達したムカゴは表面に突起の出たボールあるいは機雷をイメージする。
環境や栄養状態の違いからか、数個のムカゴに華奢な美しい花をつけているものもあり、それらは可憐であり、全く別物に見える。
この花序・珠芽をハサミで積んで収穫していくのだ。雑草の中での作業となるが、特徴的な球体は目が慣れてくると簡単に見つけることができる。生育状況にもよるが、一時間もあれば1㎏くらい集めることができる。後の調整作業も水洗いぐらいで、球根部の収穫調整作業と比べると格段に楽である。また、球根部の収穫と比べると、資源に対するダメージはほぼないと言って良いと思う。というのは、これらがどの程度栄養繁殖に成功するのか前述のように疑問があるに加え、円山川堤防は、5月20日から除草作業が行われ、私の今回の調査フィールドも大部分が5月30日あたりで刈られてしまい、6月以降は、橋の下付近のわずかに残された部分なのである。
このムカゴ、見た目は固そうで、殻が歯に引っかかりそうに見えるが、意外と柔らかいので驚く。
一粒思い切って口に放り込んで身では明らかである。程よい歯ごたえで、ほんのり甘いさわやかな味、やがてノビルらしい辛味が口中に広がる。
醤油漬け、酢漬けにしてみた。球根部、葉茎部については素晴らしい保存食であることは既に実証済みであるが、花序、珠芽(ムカゴ)部分についても、今のところ若漬け状態でしか確認できていないがその味良好であり、家族からも好評である。
1か月後、3か月後の結果や、秋からのノビルの生態や、草刈りの有無など今後も追跡したいと思う。
今回思ったことは、既存の図鑑の記載は画一的であり、ノビルについてのざっとしたことは分かるが、細かい生態や花序・珠芽の食利用についてはほとんど情報がないということである。いろいろと推定も交えて書いてみたが、ご意見等あればいろいろと教えてほしい。