カワラハハコという植物があります。ハハコグサ似で、石の河原(丸石河原と呼ばれる)に生えるのでそんな名前がついたのでしょう。最近では、この植物は数を減らして兵庫県など多くの都府県で絶滅が心配される植物になっています。円山川では多産したのですが、大水害以降激減して本当の意味で絶滅が心配される状況になってきています。
カワラハハコは、かつては、円山川の上流域にもたくさん生育していました。支川の大屋川でも50年ほど前の記録が残っています。そこで大屋川を調べてみることにしました。
大屋川左岸。帯状に伸びる緑はヤナギタデ。
驚きました。カワラハハコどころではありません。丸石河原を特徴付ける植物が見あたらないのです。その中には、ヨモギやメドハギなどのどこにでもある植物も含まれていますが、それらすら見あたりません。ようやく大屋川の最下流部に近い広谷まで来て、ヨモギやメドハギが出てきました。カワラマツバという河原の名前を含む植物も出てきました。
大屋川右岸。わずかにツルヨシが見られる。田は囲われて守られている。
大屋川は激変していました。私の知っていた近年の大屋川は、大きな台風で洪水が起きた時以外は、ツルヨシで覆われていました。石の河原などほとんど見られない状況でした。それが、各地に広い石の河原が見られるのです
シカの影響です。川もまたシカの影響を強く受けているのです。
ヤナギタデの純群落がありました。他の植物はほとんどありません。わずかに見られたのは、エゴマとキササゲでした。対岸に切り立った川岸があってそこにだけかつて我が物顔で茂っていたツルヨシの片鱗が残っています。田んぼは網や柵で覆われています。シカなどへの防御なのでしょう。
ヤナギタデの中にメハジキ、エゴマなどが混じっている。
ヤナギタデは蓼食う虫も好き好きのタデです。かじるとピリリと辛いです。ピリリでは済まない個体もあります。シカも他にえさがあれば遠慮するでしょう。キササゲは薬草です。私はかじったことがありませんが、きっと薬の味がするのでしょう。エゴマも嫌なにおいのする植物です。こんなのばかりが残っているのです。
ここは、ヤナギタデも食べられており、背が低い。
さらに下流に行くとヤナギタデも食べられています。ここには、とげだらけのジャケツイバラがありました。それから外来種のシナダレスズメガヤがありました。その他に目立ったのは、同じく外来種のヤナギハナガサ、アレチハナガサです。
キササゲ
ジャケツイバラ
シナダレスズメガヤ
結局、大屋川にはカワラハハコはありませんでした。シカの食害以前に、カワラハハコが安定して生育できる環境がすでに失われている可能性が高いのです。カワラハハコは、水面から2m程度の高さの石の河原に生育することが円山川での調査で分かっています。河川改修の影響なのか私の見て回った範囲では、そのような環境は大屋川にはできないようなのです。
円山川。こんな丸石河原にカワラハハコは生育する。
カワラハハコが初めて出てきたのは、大屋川が円山川と合流する地点です。ここでも数がめっきり減っていました。最大の原因はシナダレスズメガヤです。カワラハハコが生育するのに適した場所はシナダレスズメガヤに覆われていました。シナダレスズメガヤは多年草です。年々、強固に陣地を広げ、他の植物を排除していきます。駆除には重機が必要です。もう一つの原因は、やはりシカです。はっきりと食べられた跡が残っています。結局、2013年には、ここで二十数個体が確認できましたが、シカの食圧に耐えて開花したのは数株でした。
白く見えるのはシナダレスズメガヤ。この白と右側の緑の間にわずかに丸石河原がある。
上流に種子の供給源がないと下流のカワラハハコはじり貧になります。何か抜本的な手を打たないと円山川のカワラハハコは近い将来姿を消すことは間違いないと思います。
少なくともこの程度の比高がないとカワラハハコは安定的に生育しない。
ここで見た最大級の個体。上部がシカに食べられている。