但馬に生息するセミは全部で13種類。ハルゼミ、ヒメハルゼミ、エゾハルゼミ、ニイニイゼミ、アブラゼミ、ヒグラシ、ツクツクボウシ、ミンミンゼミ、クマゼミ、エゾゼミ、コエゾゼミ、アカエジゾゼミ、チッチゼミ。このうち、エゾハルゼミ、エゾゼミ、コエゾゼミ、アカエジゾゼミの4種は少し高い山に生息しています。
今回紹介するヒメハルゼミはシイ林やカシ林という照葉樹林に生息するセミです。照葉樹林は暖温帯の森で、但馬では海岸に近いところでシイ林、少し内陸カシ林になります。豊岡市城崎町の四所神社、温泉寺の裏山、豊岡市気比の絹巻神社の裏山が今迄よく知られた生息地で、日本海側の生息地は少ないことから、四所神社と温泉寺の生息地は旧城崎町の天然記念物とされ、現在の豊岡市の天然記念物に引き継がれています。絹巻神社の裏山は暖地性原生林として兵庫県や豊岡市の天然記念物に指定されています。
出現時は7月の中旬ごろから8月初旬まで。小さな体に似合わず大きな声で合唱します。ガーコ、ガーコともギーコ、ギーコとも聞こえます。体が小さいうえに体色が周りの色とよく似ているので、頭上で鳴いていてもなかなか見つけることができません。
従来シイの原生林が生息地と考えられていたため非常に限られたところにしか見られないとされてきましたが、内陸のカシ林で生息が確認されてから、但馬各地で新しい生息地が見つかるようになりました。
ただし、見つかる場所は、ほとんどが神社などの周辺の森(社叢)で、シイやカシの大木があり古くから切られることなく続いてきた森です。おそらく人間が住み着く以前は平地から里山にかけて広く照葉樹林に覆われていたはずで、その頃はヒメハルゼミも連続的に広く分布していたと考えられます。その後、照葉樹林の原生林はほとんど二次林に置き換えられ、ヒメハルゼミは僅かに残った場所に生き残ってきたと言えます。しかも、二次的に再生してきた照葉樹林にもほとんど姿を見せないことから、移動する力も弱いと考えられます。いわゆる鎮守の森が生き物を守ってきたよい例だと思います。