職場の山際に薪(たきぎ)が積んである一画があり、いろんな虫が集まってくる場所です。昨年はここにルリボシカミキリが飛んできました。何かいないかと、腰を落としてしばらく観察しているうちに、黒と黄色の小さなハチが数匹、この場所に執着している様子が分かりました。
シリアゲコバチです。名前のとおり、産卵管、つまり尻を腹の上にあげています。このハチはハバチやアナバチなどの、木の中で育つ幼虫に卵を産み付ける寄生バチの一種です。運よく、シリアゲコバチの産卵シーンを直後に観察することができました。その驚くべき産卵方法を紹介します。
木の中の幼虫をどのようにして探査するのでしょう。腹をコンコンと木の表面に打ち付ける動作を見ましたので、打診で見つけているのでしょうか? それとも臭いを嗅ぎつけるのでしょうか? ともかくも、幼虫の存在を察知すると産卵が開始されます。外観で産卵管と思って見ていた「尻上げ」の管は実は鞘(さや)であり、その中に収納されていた本当の産卵管が下方向に回転しながら鞘から外れて行きます。
その行動の際に驚くべき体の変化が起こっています。この写真で分かるかどうか、腹の節の一ヶ所がパカリと割れて、産卵管はさらに体の下に巻き込まれ、体内に収納されていた長い産卵管が、その割れた部分から袋に入った状態で飛び出してきます。
腹の下で安定固定された「ガイド」に沿って、細い産卵管が木の中に挿入されていきます。腹の上部には、産卵管のループが透けて見えています。発達した足のフリクションを利用しながら、産卵管は中へ中へと挿し込まれて行きます。
産卵管はときどき出たり入ったりし、挿し込みながら、中の幼虫に的中するようにコントロールしていることが予想されます。
やがて産卵が終了し産卵管が抜かれると、腹の上方に向かって尻の方に産卵管が逆回転し、鞘の中に収まりながら、割れた腹部が閉じて元の体に戻ります。
シリアゲコバチの産卵シーンを初めて観察しましたが、その驚くべき体の構造に生きものの神秘を見る思いです。