マガモは但馬で観察できるカモの中でも、最も普通にみられる種のひとつです。マガモ、カルガモ、コガモ、ヒドリガモの4種はおなじみのカモで、鳥見の人たちは頭文字だけで呼ぶこともしばしばです。「マカコヒ」といえば、「マ」ガモ、「カ」ルガモ、「コ」ガモ、「ヒ」ドリガモ。
オスの緑色の首はよく目立ち、光の当たり方で緑から青に変化しながら美しく反射します。オスのくちばしは黄色で、識別ポイントとして有効です。他のカモ同様、メスは地味な姿をしています。
飛翔姿はこんな感じで、オスは飛んでいてもその特徴がよくわかります。
さて、では、この写真のマガモはオスでしょうか?メスでしょうか?
くちばしは黄色でオスの特徴を持っていますが、首の緑色は出ていません。実はこのマガモは北の繁殖地から越冬のために渡ってきたばかりの非繁殖羽のオス個体です。越冬中に美しい色に換羽したオスは越冬地でメスとカップルを形成し、北の繁殖地に戻って子育てを行います。子育て中に繁殖羽は地味な非繁殖羽へと換羽し、その地味な非繁殖羽のまま越冬地に飛来してきます。地味な色で長旅を続ける方が、天敵に見つかり襲われる確率も低いでしょう。
野鳥観察者の間では、渡来時のオスの非繁殖羽の個体を「エクリプス」と呼ぶことがしばしばです。再び太陽が、すなわち美しい繁殖羽が現れる前の、一時的な地味な姿という日食のメージです。
マガモに限ったことではありませんが、越冬中のカモは猛禽類や哺乳類に常に狙われ続けています。写真は鳥取県で撮影した、マガモを捕まえたオジロワシです。但馬ではオジロワシの越冬飛来は極めてまれで、このようなシーンは見られないでしょうが、オオタカなどのタカがカモを襲います。
カモの世界は交雑種がしばしば見られます。繁殖地が重なる異種同士の交雑が起こり、両方の種の特徴を備えたハイブリッドが誕生します。この写真はマガモとカルガモのハイブリッドです。くちばしはカルガモ、頭部や尾羽にマガモの特徴が出ています。2種の名前を合わせて「マルガモ」と呼ばれることもあります。
マガモを飼いならして家禽化したものがアヒルです。アイガモはそのアヒルとマガモを交配して作られたカモで、私達がカモ料理で食するカモといえば、まずこのアイガモでしょう。カモ肉を食べるとき、そのルーツであるマガモのことをチラっと思い出してみてください。