2022年7月27日、円山川河口でコウノトリの観察をしていたときのことです。車の中から、巣立ったコウノトリの幼鳥の行動を追いかけていました。車の後方から、茶色い鳥が前方に飛んで、工事現場のフェンスに止まったのを目撃。大きさはムクドリくらい。赤茶色という羽根の色はムクドリにしてはおかしいし、イソヒヨドリのメスだろうか、などと思いながら、300mmの望遠レンズでとりあえずその鳥を撮影しておきました。
撮影画像を拡大してみると鳩のシルエットです。このあたりで見られるハト科の鳥といえば、ドバト、キジバト、アオバトの3種類。ドバトは、いわゆる伝書鳩として人に飼われていたものが野生化したもので、特に都市部での増殖が社会問題にもなっています。ドバトの羽根色は様々で、今回の鳩もこのドバトの色変異かと思って見ていました。
しかし、しばらく見ているうちに、首の後ろに黒い帯があることや、胸からお腹にかけてプレーンな小豆色であること、このあたりで見る鳩に比べて明らかに小型であることで、もしかしたらという気持ちが湧き上がりました。近づいてちゃんと記録撮影しておこうと、車のドアを開いたときには、もう姿はありませんでした。
急いで車内に置いてある図鑑のハト科を開きます。まったく同じ色模様の鳥を、すぐに見つけることができました。ベニバトのオス個体でした。図鑑の特徴と完全に一致します。図鑑によれば、ベニバトは中国南西部からインド東南アジアに分布し、日本では西日本、特に西南諸島でまれに観察されるとありました。兵庫県での観察記録や、豊岡盆地での過去の飛来記録は調べていないので不明ですが、非常に珍しい南方の鳥の飛来に遭遇したことは間違いありません。
本件で鳥仲間と情報交換すると、昨年には隣接する京丹後市久美浜町でベニバトが撮影されていることも分かりました。今年の春には、今回のベニバトを観察したエリアで、同じく南方系のシロハラクイナも目撃されています。これまで見ることのなかった南方系の野鳥が、このようにちょくちょく姿を見せるようになって来たことは、やはり地球温暖化の影響とセットで考えざるをえません。南方系の昆虫や植物の北進が明らかであるように、鳥の世界でも同じような分布域の変化が、私たちアマチュアレベルの観察者の目にも、気付きとして現れてきているような気がします。