アリノタイマツは崖や路肩などの裸地に発生する地衣類である。
最初見つけたときは、シロソウメンタケ科のキソウメンタケだと思い、但馬のキノコの写真展でキソウメンタケとして写真展示した。その時に詳しい方から間違いをご指摘いただき、アリノタイマツであることが分かった。アリノタイマツは比較的珍しい種類で、その辺で普通に見られるというものではない。また、地衣類という面白い一群に属している点も興味深い。この写真のものはコウノトリの郷公園内で撮影したのであるが、一般の観光客が普通に歩ける散策道わきに発生していたもので、アリノタイマツがその辺にみられるという但馬の自然の奥深さを表しているものかもしれない。
今回、アリノタイマツのおかげで地衣類というものを身近に実感したので、少し勉強してみた。なんとなくは知っていたが、とても面白い生態であることをあらためて知った。ざっとまとめてみると、地衣類とは、菌類のうち藻類を共生させることで自活できるようになったものである。菌類は光合成しないため植物のように自立できないので、植物体を分解するか、植物と共生して栄養を得て生活しているのが普通である。ところが、一部の菌類は菌糸で作られた構造内に藻類を共生させ、藻類の光合成産物により自立生活を可能にしている。少し乱暴な言い方だと思うが、これが地衣類である。藻類と菌類は完全に融合しているわけではなく、それぞれ独立に培養することも不可能ではないが、菌類単独では形成しない特殊な構造や、それぞれ単独では合成しない成分を作るなど高度な共生関係にある。
藻類を共生させた菌糸の構造物は地面や岩肌、樹皮上に広がり、コケ類のようにも見えるが、形態的に異なっており構造は全く違うものである。地衣類を構成する多くは子嚢菌類で、子実体(いわゆるキノコの部分)は小さいものが多いが、アリノタイマツはヒダナシタケ目(最近はアンズタケ目との分け方が主流のようだが。)でソウメンタケ類に近く、目視できる大きさの子実体を発生させる。地衣類の中でも少し特殊なものかもしれない。オレンジ色の子実体と、緑色の藻類が共生した下地が美しい。