
5月の終わりから6月にかけて、但馬海岸の砂浜ではアサギマダラが観察されます。海岸を通過するアサギマダラには、ある目的があります。
この季節、砂浜にハマヒルガオのピンクの花がよく目立ちますが、スナビキソウという白い小さな花の集まりを見かける場所があります。スナビキソウは兵庫県レッドリストCランク種で、どこにでも普通にあるという植物ではありません。
スナビキソウの花に、この時期に山に向かう途中のアサギマダラが集まるのです。スナビキソウの花にはピロリジジンアルカロイド(PA)という成分が含まれており、アサギマダラのオスがこのPAを取り込んで性フェロモンを生成するのと、脳に作用して交尾行動を誘発するのだそうです。またPAは有毒で、体内に蓄積することで捕食者から身を守る効果もあます。
スナビキソウに誘引されるアサギマダラを観察していると、新鮮な白い花より茶色く枯れた花を選んで集まっています。枯れた花にはこのPAなる物質がより多く分泌されているのでしょう。海でエキスをたっぷり溜め込んだあと、アサギマダラのオスはメスを求めて山へと上がり繁殖するのです。

この写真は初秋の撮影ですが、翅に場所、日付を記した手書きのマーキングが見えます。渡りをする蝶として有名なアサギマダラ。このようにマーキングしておけば、移動先でたまたま同じ個体が再確認されれば、渡りのルートの解明につながるのです。
アサギマダラの旅は一方通行です。春渡りの、南から北へ移動する成虫は、但馬の山地で繁殖したあと死んでしまいます。但馬で生れた新しい成虫が、今度は北から南に向かって旅に出るのです。そして暖地での繁殖を終えてその成虫は死に、幼虫で越冬します。そしてまた春に新しい成虫となって、北を目指す旅に出ます。