但馬に生育するアネモネ属の中でアズマイチゲだけが絶滅危惧種に指定されています。近畿版のレッドデータブック(2001年版)で準絶滅腫に指定され、兵庫県(2010年)ではBランクに指定されています。改訂されたばかりの兵庫県版レッドデータブック植物編では改訂前と同じBランクなので新たな生育地がほとんど見つかっていないのでしょう。
但馬では確かにめったに出会う植物ではありません。しかし、実際には思いの外、各地にあるのではとも思います。というのもキクザキイチゲによく似ていて遠景では区別できないからです。キクザキイチゲだと思いこんでいて見つかっていないものが少なくないと思うのです。
私の最初に見つけた場所はまさにそんな感じでした。キクザキイチゲがたくさんあって、その中にわずかにアズマイチゲが混じっていました。そのアズマイチゲを最初に見つけたのは全くの偶然でした。たまたま腰を下ろした場所で目の前のキクザキイチゲを見ると、葉が丸いので驚きました。キクザキイチゲではなくアズマイチゲだったのです。
次の年には同じ山の別の谷ではあるものの標高や環境が似た場所でアズマイチゲを探しました。思い通りアズマイチゲがありました。
アズマイチゲは但馬の各地にあるようです。
ある栗林には見事な群落もあるのだそうです。栗林は人間が草刈りなどをして管理していますので、アズマイチゲのように早春に咲いてすぐに枯れてしまう植物には好適な場所のようです。
アズマイチゲは暗いときは花が開きません。雨の日は当然咲きませんし、曇っていてもきれいに咲きません。
ある年、写真を撮ろうと出かけました。朝早くは花が開いていないことは分かっていたので10時くらいに着くようにしました。それでもまだ閉じていました。仕方がないので、別の植物を観察しに2時間ほど山の中に入って戻ってきました。なんとか開いていました。
アズマイチゲの葉 葉は3小葉に分かれ、先が丸い
キクザキイチゲの葉 葉が羽状に分裂し、先がとがっている
アズマという名前の通りに東日本に多いようです。本州中部以北の落葉樹林下には多く生育することから、但馬に生育するものは、氷河期の寒冷な時代から生き残っている冷温帯遺存種と考えられます。アズマイチゲの生育するところは自然度の高い落葉樹林なのだと思われます。