たじまのしぜん

HOME たじまのしぜん バージニアムラサキホコリ

バージニアムラサキホコリ

ムラサキホコリ目   ムラサキホコリ科   ムラサキホコリ属                Stemonitis virginiensis Rex   バージニア紫埃

 ムラサキホコリの仲間は見分けが難しいものが多い。子実体の高さが2〜6 mm程度のものでもよく似たものがたくさんあり、前回まで連続でハダカコムラサキホコリ、コムラサキホコリ、チャコムラサキホコリ、スミスムラサキホコリと4種を紹介してきた。表題を飾る写真が同じようなものばかりとなり恐縮ではあるが、顕微鏡で観察すると、それぞれが全くの別物であることが分かっていただけると思う。今回は、さらに特徴的でレアな種といえるバージニアムラサキホコリを紹介したい。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

 まず、和名のバージニアというのが非常に印象的だ。何やらアメリカ合衆国を連想させる和名を図鑑で見たとき、多くの変形菌に興味を持つ人たちは、ある種のあこがれを持つのではないだろうか。
 バージニアムラサキホコリの学名を構成要素ごとに分解して、それぞれの意味を読み解いてみたい。
Stemonitis virginiensis Rex
属名:Stemonitis(ムラサキホコリ属)
 ギリシャ語の「stēmon(糸、または花の雄しべ)」に由来。ムラサキホコリ属の変形菌が持つ、発達した糸状の細毛体ネットワークや、子嚢が立ち並ぶ全体的な姿が雄しべのように見えること。
種小名:virginiensis
 ラテン語化された地名で、「バージニア(Virginia)の」「バージニア産の」という意味。分類学において新種記載される際の基準となった標本(タイプ標本)が、アメリカのバージニア州で採集されたことに由来。和名のバージニアムラサキホコリも、この種小名をそのまま直訳したもの。
命名者:Rex
 19世紀後半に活躍したアメリカの医師であり、変形菌類研究者であるジョージ・A・レックス(George A. Rex, 1845–1895)を指す。北米の変形菌研究において、本種を含む多くの新種を記載した人物。
 つまりこの学名は、George A. Rexによって記載された、バージニア州産のムラサキホコリ属の変形菌という意味である。

 今回紹介に用いた標本は、2019年9月5日に豊岡市目坂で採集したものである。2019年といえば、私が7月に初めて日本変形菌研究会の夏合宿に参加した年だ。鳥取県の大山で多くの先輩たちに指導を受け、大きな刺激をもらい、本格的に変形菌の採集に取り組みだした記念すべき年である。

 当時はとにかく標本を集めようと、外見は同じようにしか見えないムラサキホコリの仲間もとりあえず採集して標本にしていた。それから数年が経ち、顕微鏡による同定技術も多少は習得し実践できるようになった。過去の標本を整理し、但馬地域の変形菌リストを作成する作業の中で、同じようなムラサキホコリの仲間の中でも、胞子が網目型を示すものを見つけることができたときは感動したものである。その中の一つがこの標本であり、明らかに網目が大きくて粗雑な形をしており非常に特徴的であった。ムラサキホコリ属の網目型基本種ムラサキホコリとは明らかに別種であり、バージニアムラサキホコリに辿り着くのはさほど困難ではなかった。

 この標本は単子嚢体型で束生し、子実体の高さは約5 mm。実体顕微鏡で外貌を観察する限りでは、よく似た類似種が多すぎて何者であるかを判別することは不可能である。しかし検鏡してみると、細毛体が形成するしっかりとした表面網が確認でき、ムラサキホコリ属であることが分かる。

 子実体の高さが5 mm前後のムラサキホコリ属は数多く存在するが、顕微鏡下での胞子の模様こそが同定の最大の決め手となる。バージニアムラサキホコリの最も重要な特徴は、胞子の表面にある網目模様だ。胞子の直径線上に並ぶ網目の数は、おおよそ4〜6個程度。つまり網目が非常に大きいのである。

 類似種と区別する上で、胞子の網目紋が大きく、直径線上に5個程度並ぶという点は決定的な特徴である。あえて混同しやすい種を挙げるとすれば基本種であるムラサキホコリであるが、こちらは細かい網目で、直径線上の網目数は9個程度に達し、数は明らかに多い。

 表面網は子嚢全体を筒状に覆うネットワーク構造になっており、内部の細毛体は軸柱から外側に向かって分岐しながら伸び、最終的に表面網と結合している。

 日本変形菌誌の検索表では、バージニアムラサキホコリの表面網は上部で不完全、ムラサキホコリでは上部まで完全と記載されているが、今回紹介している標本においても子嚢体の上部で表面網が不完全である部分が認められた。

 子嚢の内部を貫く軸柱は、先端のすぐ近くまで真っ直ぐに伸び、先端付近に達するとスッと消えるように細毛体のネットワークへと分岐して終わる。

 胞子径は約6.25 μm と計測され、これも日本変形菌誌に記載されている(5.5−)6–7(−8) μmという値と一致した。
 本標本は専門家による直接の同定は受けておらず、バージニアムラサキホコリは稀な種でもある。しかし、胞子の粗い網目紋が決定的であるとともに、山本幸憲先生が遺された日本変形菌誌という指針の記載としっかりと合致していることから、バージニアムラサキホコリで間違いないものと判断した次第である。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

 スミスムラサキホコリもそうであるが、このバージニアムラサキホコリは学名がそのまま和名に用いられている。命名者である山本先生のセンスをもってしても、より適切な和名が思い付かなかったのだろうか。いや、もしかすると、この種が持つ決定的な特徴を表現するには、タイプ標本の産地である異国の州名をそのまま冠することが最も適切だと判断されたのかもしれない。バージニア州はアメリカ合衆国南東部にある州で、デキシーランド(南部地方)の一部であり、オールドタイムやブルーグラス・ミュージックの本場でもある。このタイプ標本は、アパラチア山脈のふもとで採集されたのだろうか。
 外貌からは多くの類似種と見分けがつかないムラサキホコリの仲間。しかし顕微鏡を覗けば、その胞子には不規則で粗い網目模様を見ることができる。この種に名を与えるなら、遥かアパラチアの風土を連想させる異国の州名に勝るものはないかもしれない。
 そう考えると、「横文字の響きは格好良いが、学名を転用しただけの無機質な名前だ」「類似種が乱立する仲間たちに、さすがの先生も気の利いた和名が思いつかなかったのだろうか」などと、一瞬でも失礼な考えがよぎってしまったこの和名が、にわかに深いロマンを帯びてくる。むしろ、命名者の凄まじいセンスを感じてしまうのである。

 バージニアムラサキホコリ、単子嚢体型、束生し、有柄で高さ2~6(-8)㎜。子嚢は円筒形または長卵形で鈍頭またはやや鋭先形、すみれ褐色または褐色。柄は黒色で光沢があり、高さ0.5~2㎜で子嚢の高さの(1/5-)1/4~1/3。軸柱は柄の延長で上方に漸細し、子嚢の先端に達して細毛体に移行する。表面網は角張り、網目は小さく、胞子の大きさと同じかより大きくて刺があり、上部で早落性の傾向がある。
 胞子は直径(5.5-)6~7(-8)µmで顕著な疣が不顕著な帯状隆起で結ばれた網目型。
 おもに夏に腐木上に稀。

RECOMMEND

詳しく見る

但馬全域

投稿日 :
たじまのしぜん

オオトラフコガネ

詳しく見る

豊岡市

投稿日 :
たじまのしぜん

スミスムラサキホコリ

詳しく見る

但馬全域

投稿日 :
たじまのしぜん

ベニシジミ

  • サイドバナー
  • サイドバナー
  • サイドバナー
  • サイドバナー
  • サイドバナー
  • サイドバナー
  • サイドバナー
  • サイドバナー
  • サイドバナー
  • サイドバナー
  • サイドバナー

RANKING

POPULAR TAG

  • サイドバナー
  • サイドバナー
  • サイドバナー
  • サイドバナー
  • サイドバナー
  • サイドバナー
  • サイドバナー
  • サイドバナー
  • サイドバナー