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ウツボホコリ

ケホコリ目 ケホコリ科 ウツボホコリ属 Arcyria denudate(L.)Wettst. 靭埃

今回はウツボホコリ属のタイプ種であるウツボホコリについて書いてみたい。ウツボホコリ属を代表する種ではあるが、紛らわしいものが多くて同定が困難な変形菌の一つだと思う。変形菌に非常に詳しい人は別にして、我々アマチュアにとっては現場でウツボホコリに間違いないと自信をもって言い切ることが難しい種の一つだと思う。ウツボホコリの仲間でも、青色や黄色、白~灰色だったりするとわかりやすいのだが、赤褐色系統はよく似た種類がたくさんあるし、少し古くなって色褪せてくるとさらに分からなくなってくる。この辺りは外貌での判断はとても難しく、細毛体と杯状体との付着具合とか、顕微鏡で観察してみて、細毛体や胞子などを調べてみないと種同定はなかなか厳しい。検鏡した場合でも細毛体糸についている突起、刺状紋の違いなどが決め手になったりするので、私どもが使っているような中古の安物の顕微鏡ではよく見えないし、疣状突起とか金槌形とか専門書に書いてあることが実際に顕微鏡下でどのように見えるのかがよく分からないので、いまいち確信が持てなかったりする。

今回ウツボホコリについて書いてみるにあたって、ここでの過去の投稿を確認してみると、まだ変形菌について良く分かっていなかった7年前の2018年、そんなに厄介な種であることとは知らずに、既に一度ウツボホコリの記事を書いていた。

ウツボホコリ(広義)

この記事を書いた当時は変形菌に関する知識も浅く、顕微鏡による確認もしておらず、あまり難しく考えずに、図鑑に載っていた写真とそっくりだったので、安易にウツボホコリと思い込んで記事を書いた。その後、専門家に標本を見ていただく機会があり、ウツボホコリと思っていた複数の標本の中にウスベニウツボホコリが含まれていたことが分かった。そのため、この記事に使用した写真にはウスベニウツボホコリが含まれている可能性があることが判明したのである。いい加減な記事であったことをお詫びいたしますとともに、今更ではありますが2018年の記事を便宜的に表題を「ウツボホコリ(広義)」と修正させていただきます。

専門家に手持ちの標本を同定してもらう機会を得たため、ウツボホコリ属の複数種を確認することができ、改めて自分なりに検鏡し同定確認することが可能となった。種名が分かったうえでの検鏡確認により、難解なウツボホコリ属について、「日本変形菌誌」(山本幸憲 日本変形菌誌製作委員会2021年)の分類基準、検索表に基づいた同定作業を、ある程度は理解できるようになったような気がする、というか、少し段階が進んだように思う。
そんなことで前段が長くなってしまったが、今回はまだまだ難しいと思いながらも、基本としている標本は専門家にも同定されたものでもあるので、その点は記事内容の信頼性にもつながるだろうし、ウツボホコリの報告記事を上げてみようと思う。

ウツボホコリ、ウツボホコリ属のタイプ種。
子実体は単子嚢体型、群生または密生、稀に散生。有柄で高さ1~3㎜程度。伸長して高さ7㎜程度まで。子嚢は卵~円柱形、赤~桃~橙色で退色して褐色となる。細毛体は管状で分岐連絡し網を形成し、網目は小さくて杯状体に強く付着している。伸張性はやや弱く、細毛体糸は環状・半環状・歯状または刺状紋があり、直径3~4µm程度。胞子は数個の散在する大きな疣があり直径6~8µm。春から秋に腐木上にふつう。

ウツボホコリ、シロウツボホコリ、キウツボホコリ、アオウツボホコリ、ミドリウツボホコリ、モモイロウツボホコリ、ウスベニウツボホコリ、ヒダマウツボホコリ、トビゲウツボホコリ、ベニシロウツボホコリ、クロエウツボホコリ、ナガホウツボホコリ、タレウツボホコリ、コウツボホコリ、マルウツボホコリ、シラタマウツボホコリ、ヒメウツボホコリ、ホソキウツボホコリ、ラセンウツボホコリ、、、、ウツボホコリ属の仲間は変形菌の中でも大きな勢力を持っていて、和名を並べてみるだけでも色とりどり、形もいろいろなのが想像できて楽しい。変形菌の関係書籍を見ても必ず数種類は紹介されているので、変形菌に興味のある人であれば馴染みのある仲間といってよいと思う。「ウツボ」というのは、矢を入れるための筒状の道具で、腰や背中に背負う武具の一種である「靭(ゆぎ)」というものに由来しているようである。魚のウツボではない。

写真は前列はまだ未熟な子嚢だが、後列は成熟した子嚢が崩壊し伸長した細網体糸が見える。

日本変形菌誌の検索表に基づいて同定作業をすすめてみると、
ウツボホコリ属であることの説明は割愛。
子嚢壁と杯状体は異質で細毛体は杯状体に強く付着しているので検索表Cに該当。
子嚢は赤色を帯び胞子の直径は6.5µm程度であるので、この時点でウスベニウツボホコリ、コウツボホコリ、ウツボホコリに絞られる。
さらに細毛体糸は疣状・刺状・環状・歯状紋が混在しているので、ウツボホコリと同定。

ここで重要と感じたのは、検索表や種ごとの記載では子嚢の色について、桃色、赤色、肉色、橙色、褐色と文字通り色々な表現が出てくるが、色合いの認識というものは主観的解釈に左右されがちなので判断が難しいように思う。さらに子嚢の色は新鮮な状態から時間とともに徐々に色褪せてくる。ルリホコリなどの半永久的に色褪せない金属光沢と違って、ウツボホコリの色素系の色合いは時間とともに色褪せてしまうので、ますます種ごとの色合いによる特徴を見分けるのは難しいと言えるだろう。

それに対して、細毛体と杯状体との付着状況や、胞子直径などは明確な判断基準だと思う。ただし、細毛体糸の突起紋形状については、ウツボホコリは疣状・刺状・環状・歯状紋が混在しているとのことだがなかなか分かりにくい。

細毛体糸の突起紋形状については、疣状・刺状・環状・歯状紋が混在

ここまで書いて思ったのであるが、日本変形菌誌では、色褪せてしまうという問題や、主観的解釈に左右されがちな子嚢の色合いによる検索方法を、何とか表現しようと苦労されているように感じた。色など外貌による検索方法は現場(フィールド)で種同定に近づくことができるのでありがたい。一方、検鏡による同定は、確実ではあるが機材と技術が必要で、しかも現場で行うのは不可能である。その変形菌が何者であるかを我々に教えてくれるために、少しでもハードルを下げるためには、外貌による検索方法は非常に重要であるということだろう。

今回は、専門家にウツボホコリと同定していただいた標本一つと、私がウツボホコリだと思っている標本6つ、さらに専門家に同定していただいたウスベニウツボホコリ、ヒダマウツボホコリなどその他ウツボホコリ属の標本13個ほどを手元に置いていろいろと観察しながら、くどくどと駄文を書いてみたが、結局は手に負えなかったというのが正直なところでした。あまり細かいことは気にせずに「ウツボホコリの仲間」で扱っておいた方が無難そうであります。

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