ハチノスケホコリ
ハチノスケホコリは「八之助ホコリ」ではなく、「ハチの巣・毛・ホコリ」である。すなわち、八之助さんという人物に因んだものではなく、「ハチの巣に似ている」ことに由来する。
ハチの巣といっても、スズメバチやミツバチ、トックリバチなど様々だが、アシナガバチの巣をイメージすると一番近いように思う。その形状を言葉で表現するのは難しいが、逆さにしたシャワーヘッドを少し長く引き延ばしたような形で、上から見ると六角形ではないものの、ハチの巣のように丸い穴が並んでいる。
ただし、これは完全に老熟した子実体、つまり胞子を飛ばし切った古い抜け殻の状態であり、若いときはハチの巣に似ているとは言えない。成熟して子実体上部の蓋が開き、胞子をいっぱいに付けた弾糸(細毛体)が露出すると、毛糸の塊のようになって伸長する。
写真:残存した子嚢壁がハチの巣のように見える
徐々に胞子を飛ばし、風雪にさらされて散ってしまうと、やがて子嚢内部は空っぽになり、ぽっかりと穴が並んだような丈夫な子嚢壁だけが残存する。それがあたかも小さなハチの巣のように見えるのである。
写真:胞子を飛ばし切った後のハチの巣状の残骸
ハチノスケホコリは秋から晩秋に発生する。子嚢壁が頑丈なため、胞子を飛ばし切った後もハチの巣状の残骸は長く残り、翌春になっても観察できることが多い。
これまで私は、真冬や春先にその残骸を何度か観察したことはあったが、出来立ての新鮮な子実体を見たことはなかった。しかし先日の11月17日、標高約700mにある広葉樹の腐木上で、初めて新鮮なハチノスケホコリの群生を見る機会に恵まれた。
柄がしっかりと立ち上がり、子嚢の先端には半球形の蓋がはっきりと確認できる。蓋の開いていないもの、蓋が開いて細毛体がようやく伸長し始めたもの、既にかなり伸長したものなど様々で、黒から褐色の美しい子嚢壁が輝いている。それは「ハチの巣」を連想させない、図鑑で見たことのある美しいハチノスケホコリそのものであった。
【ハチノスケホコリの形態的特性】
子実体: 単子嚢体型。ふつう数個が付着して掌状子嚢体型または擬着合子嚢体型となり、密生または群生する。有柄、稀に無柄で高さ1~4㎜。
子嚢: 倒卵形~亜円筒形で、赤~暗褐色。ほぼ半球形の蓋がある。子嚢壁は丈夫で金属光沢がある。裂開は蓋による横周性で、下部は深い杯状体として残存する。
細毛体: 長い糸状で稀に分岐し、刺と3~4本の螺旋紋がある。ねじれあうことが多く、先端部は尖る。
胞子: 直径9~11µmで細かい疣型(いぼがた)。
発生: おもに秋から冬、腐木にやや稀に発生。
ハチノスケホコリはケホコリ目ケホコリ科の「ケホコリ属」に分類されていると思っていたが、『日本変形菌誌』(2021年、山本幸憲著、日本変形菌誌製作委員会発行)では「ハチノスケホコリ属」として独立した属に分類されていることに、今回改めて気が付いた。
子嚢壁や弾糸の特徴に大きな違いがあるようだ。なお、ハチノスケホコリ属には国内で「ハナハチノスケホコリ」という種も確認されている。図鑑で見る限りとても魅力的な変形菌だが、私はまだこれを見たことがない。
























