2002年11月7日、秋も深まってきた兎和野高原で変形菌調査をしていのだが、目当てのものが見つからない。ルリホコリやキララホコリという、秋の美しい変形菌を見つけたいのだが見つからない。その代わりにと言ってはいけないかもしれないが、かろうじて見つかったのが今回紹介するかなり地味な変形菌。
最初見つけたときは気温も下がって来たのでヌカホコリという種類のものがいじけて黒ずんだものなのかなと思った。裂開前の子嚢のまだら模様が特徴的だ。持ち帰って改めて実体顕微鏡と図鑑で絵合わせをしてみると、ケホコリという種類のようである。
子嚢は球形から洋梨形や倒卵形。赤褐色から黒色で、淡色網状の裂開線がまだらにみえる。柄は暗褐色~黒で高さに長短があり子実体の高さは2~5㎜。どうも外貌から判断して、ケホコリに間違いなかろうと思った。
ところが、別の図鑑を見てみると類似種のタチケホコリ(Trichia erecta Rex)の「子嚢が裂けて現れた細毛体は毛羽立っている」というコメント付きの写真にその様子がとても似ているように思えてきた。
一度そう感じると、もう自信がなくなってしまった。やはり実体顕微鏡レベルでの絵合わせだけでは初心者は無理。
横着はいけないと思い生物顕微鏡で検鏡したところ、細毛体の先が細く長いのが確認できた。
タチケホコリは細毛体の先が徐々に細くならないのでそれが決め手となりケホコリで間違いないと確信するに至った。
ケホコリ目、ケホコリ科、ケホコリ属、ケホコリ。その和名からケホコリ目を代表する種であると連想され、珍しい種ではないようであるが、シンプルな和名の「ケホコリ」を手に入れられたことは大切な部分を抑えることができたようで嬉しい。なお、ケホコリ目のタイプ属はケホコリ属であるが、ケホコリ属のタイプ種はフタナリケホコリ(Trichia varia)とのこと。